最終章
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その幸子と一度だけ東京で会った。胸をときめかせ一張羅を着込んで出かけたものだ。思わず抱きしめキスしようとした。幸子が会いたがっていると聞いていたからだ。しかし幸子は手で杉村の胸を押さえこう言ったのだ。
「ごめんなさい。今、幸せなの。本当にご免なさい。」
あの言葉は、しばらくのあいだ杉村の耳の中でこだましていた。そんな苦い思い出が、ふと懐かしく思えるようになったのはつい最近のことだ。年なのだろうか。杉村は遠ざかる三人の後姿をそっと眺めた。そして心の中で呟いた。
「石田亜由美さん。僕の初恋の人、幸子さんのように、幸せを掴めよ。」
かつて石田を不幸のどん底に落とした写真があった。石田は、その写真に映っていた男と今すれ違ったのである。
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