暁 〜小説投稿サイト〜
シンクロニシティ10
第十九章
[1/8]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 天井が開ききるまでの間、石田は作業台を横倒しにし、晴美を台の陰に伏せさせた。見回す限り、銃弾に耐えられそうなものはこの厚い木製の台くらいだ。しかし、あまり自信はない。鉄格子越しに男が地上の仲間に叫んだ。
「気をつけろ、奴は拳銃をもっている。入って左だ。作業台の裏に隠れていやがる。」
 男は牢屋から覗いて、石田が拳銃を取り出すのを見ていたようだ。入り口付近に複数の人の気配がする。緊張で掌が濡れる。左手で拳銃の筒先を握り、右手の汗をジャケットで拭う。そしてもう一度握り直した。階段の左端に銃口が見えた。
 石田が頭を引っ込めた途端に鋭い銃声が響き、密閉空間にこだまする。目暗滅法撃っている。そのうちの一発が木製の台に当たった。晴美がキャッと悲鳴を上げた。一瞬ひやりとするが銃弾は貫通しなかった。一瞬訪れた静寂に、石田は耳を澄ませた。
 すると外で銃声が一発、それに続いて切迫した怒鳴り声が聞こえ、三発銃声が響いた。榊原が攻撃したのだ。続けざまに銃声が響く。榊原は不利な闘いを余儀なくされているようだ。榊原のリボルバーは6発の銃弾しかない。派手に撃っているのは敵の方だ。
 しばらく静寂があって、また銃撃が始まった。音の強弱から、榊原の一発に対して数倍の反撃が加えられているのが分かる。石田は「晴美、ここから動くな」と言って立ちあがった。
「仁、立っちゃだめ。危ないわ。」
「いや、そうも言ってられん。榊原がやられそうだ。」
「おっちゃんも来ているの。」
「ああ、とにかく、そこを動くな。」
 石田は階段に近づき、入り口を覗いた。誰も見えない。銃声は散発的になった。階段を上がり始める。頭を傾げ、右目で床面から外を覗った。シャッターの内側に人影は見えない。一気に階段を駆け上がる。銃声が一斉に鳴り始めた。石田は床に倒れ込んだ。
 銃声は建物の外から響いている。石田は立ちあがり、柱の陰に身をひそめ、外を覗った。そして目を見張った。二人の警官が片膝をつき、向かいのビルに銃を向けている。石田も目を凝らせて見るが、ビルの周りは暗くて何も見えない。
 警官に銃を向けてはみたものの、迷った。もしかしたら、近所の交番から駆けつけた警官ということもあり得る。その時突然サイレンの音が響いた。パトカーだ。付近の住民が通報したのだろう。一人の警官が立ちあがり駆け出して、塀のかげに消えた。その後姿を見ていたもう一人もその後を追った。
 前のビルからは何の反応もない。塀が途切れた所から30メートル付近にオレンジ色に点滅する光りが見える。たまたま付近を巡回中のパトカーが駆け付けたのだ。遠く近く、あちこちからサイレンの音が聞こえてくる。東京中のパトカーが集まって来そうだ。

 これより5分ほど前、ビルの左側にあるドアが乱暴に開けられ、制服警官二人が飛び出し
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ