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シンクロニシティ10
第十九章
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」と叫んで、石田の携帯をポケットからぬきとった。
「すっかり忘れてたわ。お母さんを安心させないと。」
 携帯のボタンを手際良く押して耳に当てた。しばらくそうしていたが、首を傾げた。何度かリダイヤルしても結果は同じだった。
「おい、どうした。お母さんは留守か。」
「ええ、出ないの。どうしたのかしら。春代がいるのだから、こんな遅く出かけるはずないわ。」
「春代って晴美の妹のこと?」
「そう妹。パパの血を分けた子よ。可愛いの。まだ小学6年生だけど。」
「春代っていうのか。」
石田は春代と聞いて妹の和代の名前を思い出した。小野寺の思いがこもっているのだろうか。何とも言えない不思議な感動を覚えた。だが、次の瞬間、急激に不安が襲った。

 小一時間程して二人は榊原に拾われた。晴美は榊原の変わり様に目を丸くしていたが、特にそれには触れなかった。確かに、野武士が商人に化けたような変わりようだ。その綺麗に刈り込んだ眉を見上げながら、石田が言った。
「晴美が何度も電話を掛けたが家につながらない。どうしたんだろう」
「お前から電話をもらって、すぐにワシも電話した。その時は通話中だった。いったいどうなっているんだ。つまり、その後何処かに行ったということか。」
と首を傾げた。石田はすぐに了解した。小野寺と幸子が話をしていたのだ。ということは、それまで榊原が言うように、幸子は家にいたことになる。榊原が言う。
「よし、もう一度電話してみよう。」
片手運転で、携帯のリダイヤルボタンを押した。しばらく耳にあてていたが、諦めて首を振った。
「今度は留守だ。30回待って出ないってことは、間違いなく家にはいない。よし、晴美さんを親父に預けたら、二人で行ってみよう。」
「私も一緒に行く」
「駄目だ、撃ち合いになるかもしれないし、これ以上君を危険な目に合わせたくない。いいか君は残るんだ。いいね。」
「分かった。」
消え入るような声で言った。やはり不安は隠し切れない。しばらく重苦しい沈黙が車内を包んだが、石田が大きく溜息をし、気分を変えるように言った。
「晴美、さっき話してやったあの不思議な話しを思い出せ。お前の叔母さんが付いているんだ。心配するな。ところで、今、何処に向かっている?」
「目黒だ。目黒区役所の先だ。さっき親父に電話して確かめた。ところで池袋駅に置いた車はレッカー移動されたんで、親父の借りた車を取り上げて来たんだ。それで親父は怒っている。」
「それはそうだ。あの人のことだ、待つのは苦手だろう。」
「ああ、親父も一緒にあのビルに行くつもりで車に乗った。だけど、足手まといになると思って、親父が煙草を買いに降りた時、置き去りにしてきた。キャンピングカーを渋谷に回せって怒鳴ったら、地団駄踏んでた。」

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