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シンクロニシティ10
第十七章
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見た。男は犬山に何の注意も払わなかったが、犬山は思わず振り返って男の後姿を凝視した。
 男は尾久駅前のマンションにいた男達のうちの一人に良く似ていた。犬山は踵を返すと男の後を追った。男はつけられているとも知らずに軽やかに歩いて行く。犬山は気付かれぬよう二三人の背中に隠れるようにしながらそ知らぬ振りで後に続く。

 男は駅前のパチンコ屋に入っていった。犬山はパチンコ屋の入り口を通り過ぎ立ち止まると、ポケットから煙草を取り出し火をつける。吸い終わると、ゆっくりと歩いて店の入り口に立った。自動ドアが開き、ジャラジャラという喧騒の中に一歩足を踏み入れた。
 男はすぐ右の一番手前に座って玉を弾いている。犬山は三列後方に席をとり、男の台からはみ出た右足を見詰めた。犬山は懐具合を考え、1000円で止めにして外に出て待つことにした。出そうもない台で、男に付き合っていたら直ぐに万札が消えたであろう。

 30分ほどで男は出てきた。そうとうにすったのだろう、不機嫌そうな顔でそれと分かる。その顔を真正面から見てあのマンションにいた男だと確信した。男はタクシーを止め乗り込んだ。犬山は慌てて通りを渡りタクシーを捜したが見当たらない。
 幸い30メートル先の信号で止まった。後ろを見ると一台のタクシーが角を曲がり通りに現れた。犬山は大きく手を振りタクシーの到着を待った。信号が青に変わり男の乗った車が滑り出す。少し遅れて犬山もタクシーに乗り込み、運転手に言った。
「警察の者だ。3台前にタクシーがいるだろう。アレを追ってくれ。」
この運転手は、ぶすっとしたたまスタートさせる。犬山はちらりと運転手を見やり、拍子抜けして前かがみになった姿勢を戻した。もう少し驚いてくれてもよさそうなのだが、何の興味も示さない。しかたなく前方を走るタクシーを睨みつける。
 犬山は警視庁捜査二課の刑事である。贈収賄や企業がらみの犯罪を主に担当してきた。そうした事件には、相手を追い詰めてゆく緊張感はあるものの、この一月の間に味わったような身の危険を感じるような緊迫感はない。それが犬山を興奮させていた。
 男の乗ったタクシーは交差点で左折した。しばらく行って再び左折し、新目白通を直進する。タクシーの運転手が間延びした声で聞いた。
「あんた本当に刑事さん?」
「当たり前だ。嘘を言ってもしかたがないだろう。」
「いや、最近多いんですよ。どうも探偵らしいんですけど、刑事って言えばこっちが必死で協力したり、無理をしてくれるって思っているんです。つい調子に乗って事故起こしちゃったこともありますから。」
犬山は胸から警察手帳を出して前に突き出した。運転手は振り向くいてそれに手を添えて目の前にもってこようとしている。動転して犬山が叫んだ。
「おい、おい、前を見ろ、前を向いて運
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