第十七章
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までの小野寺の傍若無人を罵り、それが日本在住の期間が長く、朝鮮人のあるべき姿を失った結果だと糾弾した。そして飯島がこう叫んだのだ。。
「やっちまえ、その小娘を殺せ。それが、祖国に対する忠誠の証だ。小野寺にはそれが欠けている。お前等の根性と決意を小野寺に見せてやれ。」
あの少年が即座に反応した。和代は事態の急変に恐れおののき小野寺にすがるような視線を向けた。驚愕に目を見開く二人の瞳と瞳が一瞬結ばれた。その刹那、二人の視線を遮るように少年が和代に馬乗りになった。
「止めろー、止めるんだ」
二人の少年が抵抗する和代の手と足を押さえた。
「和代ー、和代ー」
小野寺が和代の名前を叫んだ時、飯島が何か口走りながら銃を振り下ろした。側頭部に衝撃が走り、昏倒した。
意識を取り戻すと、和代も飯島も誰もいなくなっていた。和代の遺体を捨てに行ったのだと気づいた。その時、すがるような視線を向ける和代を思い出し、悔恨と絶望が心を鋭くえぐった。和代の名を何度も叫んだ。涙が血と混じり、頬を伝う。何が真実なのか分からなくなった。朝鮮民族万歳、革命万歳。少年達の行為は正に小野寺が少年時代から思い描いてきたことだった。朝鮮民族の敵を殺せ。しかし、頬を濡らす涙はそんな思いを押し流すようにあふれ出た。
小野寺はぶるぶると震えていた。死の恐怖がそうさせるのだ。飯島という男の冷酷さを知り尽くしているからだ。その男と渡り合わなければならない。
ふと、懐かしい声が聞こえた。耳を澄ませた。あの弱弱しい声が微かに聞こえてきた。
「小野寺さんも、、、、して。」
少女はそう言うと、小野寺の手をとり自分の小さな胸に導いた。それは少女が殺される前の日の出来事だった。小野寺はゆっくりと、小さな肩を抱き寄せ、唇を重ねた。和代の閉じた瞼が震えている。小野寺は時を越え少女を抱きしめた。そして呟くように言った。
「ごめんよ、和代。俺はあの時、君を助けたかった。でも何も出来なかった。」
日本人には珍しい薄茶色の瞳は優しい光りを帯びて小野寺を見詰める。
「和代、俺は、きっと晴美を救い出す。必ずだ。たとえ、死んでも構わない。」
そう思った時、ふとあることに気付いて、頬がゆるんだ。そうだった
のか。恐怖と苦渋の思いが徐々に恍惚へと変容し、そして、後頭部から体の芯をゆっくりと下りてゆく。また呟いた。
「もしそうなったら、俺は和代と同じ世界に行けるってことだ。今度こそ、君のそばにいて、君を守ってあげられる。こんどこそ。」
酔いが眠りを誘う。唯一、心の平安を取り戻せる時、小野寺はそれを待っていた。
その翌日の昼過ぎのことである。たまたま犬山は高田馬場で所用を終え、駅の改札に入ろうとしていた。その時、入れ違いに出て行こうとする男の顔を見るともなく
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