第十七章
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台の携帯でその番号を一つ一つ押してゆく。その番号から何度も掛かってきている。それに出れば、凡その位置がばれる。だからもう一台携帯を用意した。真夜中だというのに相手はすぐに出た。
「おい、巌だな。おい、そうだろう、返事をしろ。」
「ああ、そうだ。」
「何処にいる。と言っても答えるつもりはないってことは分かっている。しかし、とんでもないことをしてくれたもんだ。お前が二重スパイに成り下がっていたとは、想像だにしなかった。見下げ果てたやつだ。金かそれとも女か。」
「どっちでもない。それより、叔父さん、早く用件を言ってくれ。」
「本部が動き出した。それは分かっているな。これから携帯の番号を教える。そこに電話すれば本部の幹部が出る。」
ホテルのメモ帳に番号を書きなぐって電話を切った。
この叔父の影響でこの非合法の世界に入った。石田と幸子の仲を裂いたのはこの叔父だ。幸子の高校時代の恋人、杉村マコトと偶然飲み屋で知り合い、二人を再会させ、密かに写真を撮った。どうしても石田の存在がじゃまだったのだ。
そして、幸子の父親が素封家であることに目をつけ、叔父が財産分与の分け前に預かろうと、組織に相談を持ちかけた。当時はまだ本部が機能していなかったから、まさしくあの男が陰で動いたのだ。
あの男は遺産を幸子一人が相続するよう、福岡にいた幸子の父親と義兄を自動車事故に見せかけて殺した。叔父は、まさかそこまでやるとは思ってもみなかったようだ。その知らせがもたらされた時、叔父はがたがたと震えていた。それが今ではいっぱしのスパイ気取りだ。まったくお笑い種だった。
あの男はどんなに冷酷なことでも平然とやってのける。思い出すだけで怒りと屈辱で体が震えてくる。しかし、小野寺は、叔父の指示に従った。妻、幸子名義の資産を売却し、北にせっせと送金してきた。それが使命だと思っていたからだ。
が、はたして、その金が祖国のため、人民のために使われたのだろうか。今となっては全く無駄だったと思う。むしろこうして南の韓国に与した自分の判断は正しかったとさえ思える。たとえ脅迫されたという経緯があったとしてもである。
その日の昼、小野寺が約束通り13時に電話すると、石田は妙な場所を待ち合わせに指定してきた。板橋の健康ランドの駐車場である。不審に思ったが、石田が罠にはめるはずもない。目当ての車はすぐに見つかった。
石田一人かと思っていたが、屈強な男三人が雁首を揃えて待っていた。一瞬嵌められたかと思った。三人のうち二人はどう見ても素人には見えなかったからだ。とっさに身を翻そうとする小野寺に、禿げの大男が大きな声を発した。
「小野寺さんよ。ワシ等は晴美さんを助けたいだけだ。あんたをどうこうしようなんて、これっぽっちも考えていない。」
振り返るって
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