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シンクロニシティ10
第十七章
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口を振った。犬山は頭が朦朧としていた。おずおずとドアの内側へと入っていった。涙が止めどなく流れた。死にたくなかった。まだ子供は小さいし、女房を愛していた。
 かくかくと歩を進めた。鉄の扉が後ろで閉まった。薄暗い部屋に一人の男が立っていた。涙でよく見えない。涙を絞りその男に焦点を当てた。その男が誰であるか分かった時、犬山のこの現実が理解できなかった。さらに確かめようと手の甲で涙を拭った。
 男は後ろ手に持っていた拳銃を一瞬のうちに構えた。次の瞬間、その銃口から犬山の額に一直線に弾が走った。死の瞬間、犬山の脳裏に疑問が渦巻いた。
「高嶋方面本部長が奴等の仲間?何故?」
 疑問は疑問のまま虚空に留まった。犬山の額から流れるどろどろとの液体がその疑問を(くう)に放出したのだが、今、それはコンクリートの床を赤黒く染めていた。
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