第十六章
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。この電話を切ってもいいんだぞ。」
男の張り上げる声は呂律がまわっていない。そうとう酔っている。普通の精神状態ではない。
「待ってください。私は貴方が和代の意思を継いでくれる人だと信じています。晴美を救いたいのです。」
「分かっている。何とかしなければならない。」
「どうすればいいのですか。私は命も惜しみません。死んでもいいのです。」
「……」
長い沈黙が続いた。男が溜息をついた。そして、言葉を発した・
「あんたは、死んでも良いと言った。しかし私にはそこまで覚悟が出来ていない。」
「私は、覚悟は出来ています。和代がついているのです。私は怖くありません。たとえ、命を失うことになっても、何もしないでいるよりましです。」
「私は怖い。殺されることが心底怖い。石田さん、晴美を救うとはそういうことなんです。」
「私は死を恐れません。晴美を救えるのなら、この身など、失っても何の後悔もありません。どうか、お願いします。晴美を助けたいのです。貴方の助けがいります。」
「……」
暫く沈黙が続き、石田は自分の言葉を反芻した。なにかまずいことを言ってしまったのではないか。だから、相手が黙っているのではないか。不安がよぎった。しかし、その不安は杞憂だった。相手は、尋常な声を取り戻していた。
「分かった、あんたの言いたいことは分かった。私も覚悟を決めよう。殺されることも含めて、自分の運命として受けとめなければならないのかもしれない。」
「貴方を、何と呼んだらいいのかわからないが、和代との関わりを教えて下さい。お願いします。20年前に殺された和代の最後を知りたいのです。真実をしりたいのです。どんなに惨い事実も受け止めます。聞かせてください。」
「……」
やはり、沈黙が続いた。相手は冷たい反応を示した。
「あんたは、晴美を救いたいんだろう。それを第一に考えろ。今、午前2時だ。明日13時に電話する。」
そこで電話は切れた。
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