第十六章
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ったな。あいつも、お前のように常に現実的で、常識の殻の中に納まっておった。だから、今ごろは、お前の横に腰掛けて、自分が間違っていたことを、うんうんと首を縦に振りながら、認めているかもしれん。」
榊原が、一瞬、たじろぎ、辺りを見回した。親父さんがその様子を見て言った。
「馬鹿か、自分のお袋を怖がってどうする。」
「とにかく、ワシは信じない。そんな話なんて溝に捨ててしまえ、ワシは信じないぞ。」
その後、石田は一時間ごとに電話を入れたが通じなかった。その日、榊原親子が寝入ってから、石田は眠れずにうつらうつらと時間を過ごした。不思議な夢が幾つも通り過ぎた。和代が枕元に現れ、石田に何かを訴えている。しかし、何を訴えているのか分からない。両親も現れた。必死の形相で晴美を助けろという。
突然、胸の携帯が鳴り響いた。すぐに飛び起き、携帯を握った。画面を見ると、やはり非通知設定だ。あの男からだ。それは確かだった。親子も飛び起き二段ベッドの上と下で石田を見詰めた。石田はゆっくりと通話ボタンを押した。
「もしもし、どうか切らないで下さい。あなたからの電話を待っていました。娘は今危険な状態にあります。でも、和代が電話してきたってことは、まだ晴美は生きていると思うのです。何故、和代が貴方の電話を使ったのか分かりません。でも、和代は貴方の助けを求めたのだとおもいます。どうか、私を助けて下さい。」
「……」
「お願いします。晴美は私にとってかけがえのない娘なのです。」
「……」
沈黙が微かに揺れている。相手が何か話そうとしている。
「お願いします。何かを言ってください。」
空気が動いた。石田は緊張した。果して、受話器の向こうから声が響いた。
「晴美はまだ生きている。しかし、残念ながら、洋介君は死んだ。」
衝撃が走った。石田は洋介君を電話のやり取りでしか知らない。しかし、晴美は心から洋介を愛していた。その洋介君が死んだ。信じられなかった。何故、このような現実が、この日本で起こるのだ。
「洋介君は何故死んだのです。」
「逃げようとして殺された。」
「何故拉致されたんです。」
「そんなことは知らん。」
痛ましい事実に暗澹として身震いした。晴美の陥った世界は尋常の世界ではない。ぜいぜいという男の吐息が不安を呼び起こす。石田はすがるような声で言った。
「なんとしても晴美を救い出したいのです。協力してもらえませんか。お願いします。」
「私は、和代さんを知っていた。何とか助けたかった。だから、こうしてあんたに電話を入れた。石田さんが言うことが真実なら、和代さんは晴美を助けたがっている。」
「あなたは、晴美と呼び捨てにしている。あなたは誰なのですか。」
「私が誰であろうと関係ない。余計な詮索はするな
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