第十五章
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「その仲間を殺した警部って奴に心当たりはあるのか。」
「いや全く分からない。そいつが俺の指紋つきの拳銃を持ち出した。身内にスパイがいたってわけだ。何もかもお見通しだったのも頷ける。瀬川とコンビを組んで、尾久のマンションを張った犬山は二課所属だ。てことは二課の警部ってこともありえる。しかし…、」
榊原は宙を睨んで思い悩んでいる。
「どうも、思い付かん。仲間を殺すような奴は想像を絶する。そうそう、親父が探ってきたんだが、尾久のマンションの男達は消えていた。」
突然ドアが開いた。びくっとする榊原をせせら笑い、てかてかの丸坊主男がにゅーっとその大柄な体を現した。石田に目配せして野太い声を発した。
「おう、おう、石田さんか。息子がいろいろとお世話になります。まして、全国使命手配中の友人に手を貸してくださるとは、本当に感謝します。おい、成人、酒をお出ししろ。石田さん、ビール、それともお酒、焼酎もあるよ。おい、成人。」
「分かったよ、そのでっかい声、何とかならないのかよ。俺は追われているんだ。成人、成人って怒鳴るなよ。」
「おい、石田さん、聞いたか、こいつは、泰然としている振りをしているが、本当は小心なんだ。だから逃げ出したんだ。棍棒でもなんでも持って殴り込むべきだった。」
「うるせえー、糞爺が、黙っていろ。相手は7人、ぜんぶチャカをもっていた。棍棒で相手になるわけねえだろう。」
親父は耳に小指を入れて掻きまわしている。分厚い下唇を突き出して、石田にウインクした。石田が思わず口を開いた。
「まあ、とにかく、何処で人が聞いているか分かりません。どっちにしろ静かに話しましょう。」
にこにこしながら親父が石田に話しかけた。
「こいつが小学校からやっていた柔道をやめて、何故大学で日本拳法に走ったかわかるかね。」
「いえ。」
「実はね、へへへ、俺に勝てなかったからだ。柔道で勝てなくて、今度は殴り合いで勝とうとしたんだ。だけど、それも駄目。こいつが大学二年の時だ。」
自慢そうに頷く父親を見上げると、榊原は腐った顔でぷいと横を向いて何か呟いた。糞親父と言っているようだ。父親はこの辺が潮時とみて、さて、と言って、石田のグラスにウイスキーを注いだ。それを一気に空け、石田が唐突に言葉を発した。
「実は、晴美から電話があった。」
二人は寸分違わぬ驚きの顔を石田に向けた。まるで双子のような似たもの親子である。榊原の額は学生時代より3〜4センチ後退している。50代にはどうなっていることやら。
「何だって。」
同時に同じ反応が返ってきた。
「仁、助けて。仁、お願い助けて。これを二回繰り返し、電話は切れた。非通知設定だった。彼女の携帯じゃない。隙をみて誰かの携帯でかけてきたんだ。その誰かを確かめたい。」
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