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シンクロニシティ10
第十五章
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る指令で、その仕事の一端に触れるだけだ。
 その指令は、まるで像の尻尾をつまむようなもので、全体像は掴みかねた。しかし、時として、あの事件の一翼を担ったと思いあたることはある。その本部の安部はMDを入手するために働いていた。当然、小野寺はその手足になって動かざるを得なかった。
 本部の人間と一緒にいることは小野寺に極度の緊張を強いた。しかたなく韓国エージェントの岡山と相談し、偽のMDを安部に握らせることにしたのだ。小野寺は安部に、不審なMDが裏社会に出回っていて、その暗号を解きさえすれば大金に化けるという与太話を耳打ちした。
 安部はその話に乗った。岡山の用意した偽のMDを一瞬迷った挙句、本物のMDにすりかえた。何故そうしたのか、小野寺自身にも分からなかった。僅かばかり残っていた忠誠心か、或いは悪戯心がそうさせたのか、判然とはしない。いずれにせよ、その解読には俺の握っているあれがなければ不可能なのだ。

 かつての革命の戦士が、単なるスパイに身を持ち崩し、あろうことかダブルスパイにまで堕落している。そして、今、自らの命惜しさに、娘を見捨てようとしているのだ。小野寺ははたと気付いた。あの事件だ。20年前の柏崎の事件が、今の全ての始まりだったのだ。小野寺は同じ過ちを犯そうとしていた。

 石田は、深夜、リック一つでマンションから姿を消した。榊原の指示はいちいちうるさいと思ったが、先達の助言に従った。都内のビジネスホテルに一泊し、翌日の夕刻、行徳の健康ランドに向かった。駐車場にお目当てのキャンピングカーが見えた。
 そう大きくはない。せいぜい四トン車程度の改造車だ。とはいえ、男三人は楽に横になることは出きる。車のドアを指示通り三つ、続いて二つ叩く。
ドアが開かれ、中から榊原が顔を出した。少しやつれていた。石田が思わず言った。
「元気そうじゃないか。」
「元気なわけないだろう。兎に角上がれ。夕飯はすませたのか。」
車の中は畳を三枚ほど連ねた広さで、一方の壁にベッドが上下二段くくり付けてある。後ろは簡単なキッチンと冷蔵庫、その前にテーブルがありその上にノートパソコンが置かれている。
「これで連絡してきたわけだ。」
「ああ、親父のだ。」
「この車は親父さんのか。」
「ああ、この車で全国を渡り歩いている。一人身の身軽さってやつさ。事件に巻き込まれた時、たまたま近くにいたんで助けてもらった。今は、風呂に行っている。」
「いったい何があったんだ。」
「ああ、まず、その辺から話すとしよう。」

 榊原は全てを話した。時折、時系列を遡り、紆余曲折に陥りながらも考え考え整理して語った。石田は話を何度も頭の中で反芻した。しかし、全体像は浮かんでこない。まして自分、晴海、そして洋介君の誘拐に至る原因が思い付かない
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