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シンクロニシティ10
第十五章
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晴美が、柏崎で殺されたあの少女の姪だと知らされても、まだ心に余裕があった。むしろ不思議な縁を感じたし、彼女を思い出す度に心の中で手を合わせてきたことがその縁を運んできたのではないかと思った。
 まして革命家に感情や情緒は不要だった。妻の財産を革命資金に回すことも使命だと感じていた。晴美に後ろめたさを感じたのは最初だけだった。晴美も自分になついた。そして小野寺は心から晴美を愛したのだ。
 しかし、早熟な晴美が少女から娘に脱皮しようとする頃、その瞳に現れた輝きに恐怖を抱いた。その輝きは和代が発していたものと見まごうばかりだった。顔を合わせるのが怖くなった。その瞳に見据えられると、居ても立ってもいられなかった。
 思い出させるのだ。怯えながら救いを求めて振り向いた少女の顔、すがるような瞳。小野寺は、少女の瞳の輝きが消えてゆくのをただ見守るしかなかった。耐え難い現実ではあったが、まだ世界同時革命という標語は色褪せてはいなかった。
 何故なら。どんなに崇高な使命を帯びた革命家も、目的成就のために仲間の理不尽な行為に目をつむるしかなかったという現実を知っていたからだ。人間は感情の動物である。その理不尽な感情を制御するのは革命思想ではなく、持って生まれた個々人の人間性、理性なのだから。崇高な政治目標達成こそが革命家に求められると信じた。
 しかし、ある時、晴美がすがるような視線を向け話しかけてきた。以前のような父親との交流を取り戻そうという気持だったのだろう。そのすがるような視線は囚われの少女が見せたものと寸分違わなかった。その瞳に死者の視線を感じたのだ。そのとき、冷血な革命家を装う男の情緒の綻びが一気に裂かれた。
 そんな心の隙に韓国のエージェントが入り込んできた。いつも寄る小料理屋の常連だった。医療機器会社の社長だと聞いていた。笑顔を絶やすことのない丸顔が印象的な男だ。きっかけは店に置いてあるテレビから流れた北朝鮮の拉致疑惑だった。
「もしこれが本当なら、酷いことをするもんだ。」
時々隣り合わせに座る男が呟いた。小野寺はスパイであることを忘れ、反論した。勿論、穏やかな笑みを浮かべることは忘れない。日本人は憎いが、日本人と偽って生きていたからだ。
「でも、日本人だって戦時中、同じように朝鮮人に酷いことをしたようですよ。まあ、こっちにも拳を振り上げられない弱みはありますよ。」
男はいきなりいつもの柔和な顔をかなぐり捨て、絞るような声を発した。
「どっちだって?えっ、貴様はどっち側だと言ったんだ?」
冷たく鋭い視線が小野寺の両目を貫いた。一瞬、言葉を失った。男は低い声で続けた。
「こっちじゃないだろう。お前があっち側だってことは先刻承知しているのさ。しかし、いつまでも泳がせている訳にもいかん。そうそう、お宅には可愛いお嬢さ
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