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シンクロニシティ10
第十五章
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買っている。いずれ戻って来るというなら、休職を認めよう。好きなだけ休んでいい。」
「有難うごじます。」
石田は深深と頭を下げた。思わず涙が滲んだ。氏家はまだだらしなく口を開けたままだ。暫くして仕事のことを思い出し、慌てて言った。
「青戸専務、東芝電鉄の仕事はどうなるんです?」
青戸がぴしゃりと言った。
「後は、君が引継ぎなさい。打ち合わせに最初から出ているのは君だけだろう。」
「宜しくお願いします。」
こう言って石田は席を立った。

 その日は一日、氏家を交え部員達と打ち合せをした。その間にも、石田の頭にあの声がよみがえり胸を締め付けた。ぞくぞくとする恐怖と懐かしさ。涙が滲む。何とかしなければならない。焦燥が体中を駆け巡る。あれは、正に死んだ妹、和代の声だった。
「仁、助けて、仁、お願い助けて。」
 これを二度繰り返した。その切ない必死の声が耳に残っている。石田は即座に理解した。晴美の中の和代が呼んでいる。和代は晴美の危急を知らせてきた。電話が切れ液晶画面を食い入るように見詰めた。そこには「非通知設定」という文字が表示されていた。
 居ても立ってもいられなかった、何度も榊原の携帯に電話した。榊原しか頼れる人間は考えられなかったのだ。あの事件が報じられて一週間ほど経っている。榊原は二人の刑事を殺した犯人として全国指名手配されていた。倉庫から50メートル離れた雑木林で榊原の指紋付の拳銃が発見されたのだ。
 しかし、指名手配されてはいたが、榊原は間違い無く晴美の見方であり、晴海の行方を追っていたのだ。携帯に出るとは思えなかったが、何らかの反応が返ってくると確信していた。そしてついにその榊原からメールが入ったのだ。メールにはこうあった。
「俺は嵌められた。お前の助けがいる。お前の携帯は使うな。新たな携帯を確保しろ。俺の電話番号とアドレスを送る。もしかしたら、今回の事件は晴美さん誘拐にも関係しているかもしれない。連絡を待つ。」
 まさか榊原のメッセージが、晴美の失踪について触れているとは思いもしなかった。心が震えた。やはり和代が知らせてくれたのだ。晴美は絶対に無事だと思った。和代が守ってくれている。何の疑問も無くそう信じた。

 男は川口のビジネスホテルでウイスキーを流し込んでいた。ここに篭って二週間以上になる。酔うことでしか恐怖から逃れることは出来ない。とうとう裏切りが露見した。恐怖に耐え、神経を研ぎ澄ませてきたが、4年も生き延びられたことの方が奇跡なのだ。
 かつて、その信念は揺るぎないものだった。世界同時革命の前衛という幻影を追いかけた。大学時代にオルグされ組織に入った。組織は非合法であったが迷いはなかった。世界同時革命という言葉は、若者の心を陶酔させる響きを持っていた。

 妻の連れ子の
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