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シンクロニシティ10
第十五章
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る者には、それは電子的な雑音としか聞こえなかったはずだ。さらに、コンピュータチップに僅かな誤作動を生じさせたのである。

 晴美の絶叫は間断なく続く。男はちらりと振り向いて、煩そうに眉をひそめたが、ため息をつくと作業を続けた。木箱に横たえられた洋介の体は微動だにしない。かつての精悍な顔は頬がこけ、真っ青な表情はまるで別人のようだったが、それはまさしく晴美の愛した男の変わり果てた姿だった。その体の上に、男はセメントを流し込んでいた。

 険悪な雰囲気が、だだっ広い会議室を支配していた。氏家部長は憮然としたその表情で、自分を言いくるめようとする石田に決して甘い顔をしないという意思を顕わにしている。自分では手に負えないと思ったらしく、青戸専務を引っ張り出してきていた。
 青戸は石田の早稲田の先輩で、アルバイトから本採用になる時、何かと便宜を図ってくれた恩人だ。その青戸がその鼻眼鏡を直しながら石田にその真意を質した。
「で、何でなの、休職だってのは?今度は本格的に腰を据えて奥さんを探そうってわけ?」
「いえ、今度は娘です。」
「えっ、今度は娘さんに何かあったわけ?まさか奥さんの所を家出したなんて言うの?でも、このあいだ幼稚園にあがったばかりだったろう。いくらなんでも、それは…」
青戸は目を白黒させて絶句した。
「いえ、違います。まして、娘というのは前妻の娘です。」
「そうそう思い出した。確か君はバツイチだったな。娘さんがいたんだっけか?」
「はい、その娘が誘拐されたんです。いても立ってもいられません。」
これを聞いて氏家部長は目をまん丸にして声を張り上げた。
「誘拐だって。石田君、さっきはそんなことは言わなかったろう。しかし、女房が家出して、今度は前の奥さんの娘が誘拐されただって。いったい君はどんな運命を背負っているんだ。」
氏家が言った運命という言葉を聞いて、一瞬、石田が切れた。
「部長。20年前、新潟の柏崎で高一の少女が陵辱され死体で発見された事件を覚えていますか?当然、氏家部長は、そんな昔の事件など覚えているわけはないでしょうが、私ははっきりと覚えています。何故なら私はその被害者の兄です。」
 石田の目には僅かに涙が滲んでいる。ぽっかりと口を開けて、氏家が石田を見詰めた。青戸は押し黙って、上目遣いに石田を見ながら何度も頷いていた。と、その口が開かれた。
「君は、僕達と何か違う性質を持っている。それが何なのかは分からなかったが、今分かったような気がする。時々、議論をしている君を見ていて怖いと思うことがある。切れはあるが議論がきつ過ぎる。相手をとことん追い詰めてしまう。」
ここで言葉を切って、暫く言葉を探していたようだが、こほんと咳をして続けた。
「まあ、そのことはともかく、僕は君の才能を
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