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シンクロニシティ10
第十四章
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僅かに隙間がある。瀬川は用心深く中を覗いた。外からの光に照らされて一人の男が浮かび上がった。車の左後方2メートルの所だ。瀬川は目をこらし男を見詰めた。向こうもじっとこちらを覗っている。手は後ろで縛られているようだ。
 薄暗い光に照らされている男の顔が輪郭を顕にする。瀬川はその知った顔を見て息を呑んだ。何故ここに石川警部が。「ちょっと見て下さい」と言って後ろにいる坂本に確認を促した。坂本の顔が覗いた。その目が大きく見開かれている。
「馬鹿な男達だ。」と低い声で呟いたのは石川警部だ。そして次の瞬間、石川は弱弱しい声で二人に話しかけた。
「大丈夫だ。奴等は奥の管理室に入った。俺もどじったよ。奴等に捕まっちまった。」
 惨めで悲惨な自分、それよりももっと惨めで間抜けな二人を見詰めて、漸くいつもの優越感が心を満たしてゆく。俺は生きる。しかし間抜けなお前等は死ぬしかない。扉が開かれ二人が入ってくる。迷いは無かった。生きるには二人を殺すしかない。ぶるぶると後ろにまわした手が震えている。失敗は許されない。

 榊原が銃声を聞いたのは倉庫の手前50メートルだ。銃声は四発、続けざま聞こえた。榊原はインターを降りる寸前、スピード違反で捕まってしまったのだ。運悪く警察手帳を忘れてきてしまったため、身分の確認に時間がかかった。
 瀬川が倉庫の位置を連絡して来たのはインターを出た時だ。待つように言ったが、二人は聞かなかった。「後から来い。」という坂本のひと声で、榊原は携帯を置いた。倉庫はすぐにみつかった。車を林の小道に入れると、二人の車もそこに隠してある。
 銃声を聞いて、瀬川が拳銃を持っていることを思い出した。銃声は瀬川のものである可能性がある。ゆっくりと倉庫に近づいていった。 そして、榊原は靴音を気にしながら忍び寄り、扉の陰に張り付いた。倉庫の扉は開かれている。榊原はゆっくりと首を伸ばし扉から中を覗った。そこに見たものは、つま先を天井に向けた坂本自慢のウエスタンブーツだった。そのブーツがゆっくりと奥に引きずられてゆく。奥から声が聞こえた。
「榊原はどうしたんだ。」
その声に聞き覚えはあるが、気が動転していて思い出せない。榊原は扉を背に、がくがくと膝が震えるのを意識した。
「榊原さんは…」ゴホっゴホっと咳き込む声。その声はまさに瀬川だ。気が遠のくような感覚が後頭部を襲った。血を見て興奮し、荒荒しく息を吐き歩き回る男達の気配。
「榊原さんは来ていない。連絡がつかなかった。」
「もう死ぬんだ。本当のことを言え。」
「死ぬ。俺が死ぬって。そうか、俺は死ぬのか。」
「そうだ、お前は死ぬ。死ぬにしても残酷な死は望まんだろう。この警部さんの銃はお前の顔をこなごなにする。そうなりたくなければ、榊原のことを喋れ。」
「そう、俺は殉職する。
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