第十四章
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きた。
「俺は、ただ生活の保証された役人になりたかっただけだ。警官になってからも危険は出来るだけ避けてきた。だからそんな世界とも無縁だった。頼む助けてくれ。」
猿渡は後ろの男たちに顎で合図を送った。後ろの固太りの小柄な男が石川警部の後頭部に銃口をあてがった。石川警部が恐怖に顔を引き攣らせる。猿渡の「よしやれ」と言う声と同時に、悲鳴とも泣き声ともつかない声が響いた。
「分かった、分かったよ、やるよ、やる!」
男達の冷ややかな笑いが響く。
「そうこなくっちゃいけねえ。さあ拳銃を受け取れ。おっと、サランラップの巻いてある所を握るんだ。榊原の指紋を消しちゃあなにもならねえ。しかし、変な気を起こすなよ。銃口は、ずっとお前の背中に標準を合わせてある、いいな。」
石川警部は拳銃をうけとるとよろよろと立ち上がった。猿渡が石川に手順を手短に指示すると、男達は麻袋の闇の中に引き上げてゆく。突如、携帯の呼び出し音、続いて猿渡の声が響く。
「俺だ、おう、そうか、インターを出たんだな。うーむ、尾行は2台か。一台は榊原に違いない。いっぺんに片をつけてやる。」
猿渡が石川警部に向かって怒鳴った。
「おい、10分後だ。石川、手筈は分かっているな……、おい、分かったかと聞いているんだ。」
「はい。」
力なく石川警部が答えた。
石川は背中に視線を感じながらじりじりと待った。奴等の仲間の車が着いて扉が開いた瞬間に途端に駆け出せば逃げられるかもしれない。いや、後ろの男達との距離はせいぜい3メートルだ。やるだけ無駄だろう。
銃を握り締める。じっとりと汗が腋の下を流れる。思考はくるくると空回りしている。殺すしかない。仲間を殺すしかない。殺せば生きられる。生き残ることこそ人生の目的なんだ。俺はそうして生きてきた。これからだって、ずっとそうして生きてやる。
どのくらいの時間が経ったのか分からなかった。タイヤの軋む音が聞こえ、しばらくして扉が開かれた。一人の男が入って来て車を誘導している。石川に気付いて、拳銃を向けた。石川は両手を上げた。男が低い声言った。
「銃口は下に向けておくんだ。危ねえな。」
「はい、すいません。」
「座って、銃は後ろに回しておくんだ。そう言われてなかったか。」
「はい、言われてます。」
「わかりゃあいい。」
車から二人の男が降りてきた。二人とも背広の下にホルスターを着けている。入り口の扉は僅かな隙間を残して閉じられた。男達が闇に消えた。石川警部が呟く。
「榊原さんよ、悪く思うなよ。俺を恨むなよ。お前さんはやり過ぎたんだ。DVDを手に入れたことが上村組長を怒らせたんだ。」
ぶつぶつと独り言が続く。低くせせら笑う声。男達は思いのほか近くに潜んでいる。殺るしかない。
扉には
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