第十三章
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でも個人として動いているのであり、警察組織は二人の失踪が事件として成立するような情報がない限り動かない。笹岡はその辺の事情にも通じているのだろう。冷ややかな声で言った。
「あんたも警官なら良く知っているだろう。この日本では行方不明者は10万人もいるんだ。そいつにちょっと関わったからといって、そんな嫌疑をかけられたんじゃ、おちおち人と話もできねえ。そうじゃねんえのか。」
ぐだぐだと笹岡の抗議は続いた。こうした男たちを何度も見てきた。この部類の人間は、たとえ証拠を付きつけられても、言い逃れるための嘘を並び立て、警官に食って掛る。証拠も根拠もない榊原は負け犬よろしく席を立つしかなかった。
その後、石田を襲った三人組が住む尾久駅前のマンションに向かった。そこは瀬川と犬山が交代で見張っている。犬山は高嶋から借り受けた警視庁捜査二課の刑事である。高嶋に言わせれば犬山は信頼でき、同郷の誼で時々酒を飲み交わす仲だという。平山二課長に知られることはないと断言した。
駅前を見張るという口実でセブンイレブンの二階の一室を借りているのだが、その時間は瀬川ではなく、犬山が詰めていた。
「どうだ、変わった様子はないか?」
「まったくありません。誰かが出て行けば、後を着けてみるのですが、だいたい飲み屋や雀荘です。三人のうち一人はこのマンションの別室に女房子供がいます。あとの二人はあの部屋に寝起きしていますが、一緒に外に出ることはありません。何でですかね?」
「誰かを押し込めて見張っていると?」
「いえ、そうではありません。ちょっと覗いてみますか?リビングと8畳は丸見えです。そのリビングに接してダイニングがありますが、その背後が6畳の和室、その右隣が4畳半になってます。気になるので二回覗きましたが誰もいませんし、家具もおいていません。」
「そうか、一昔前なら、電話連絡を絶やさぬためとも考えられたが、携帯があるのだからその必要もない。だとしたら、何か大切な物、例えばヤクか何か、ヤバイものが中に隠してあるってことだ。」
「ええ、そんな気がします。いっそ、ご友人に被害届を出させて引っ張ってみたらどうです。何かが出てくる可能性もあります。」
この言葉に榊原は考え込んだ。もし、石田襲撃の目的がDVDの収奪であるとするなら、三人を引っ張っても収穫はたかが知れてる。しかし、洋介、晴美、石田の件が一つに繋がるとすれば、このアジトは榊原にとって唯一の突破口になる可能性がある。
「もうしばら待ってくれ。いずれは考える。」
榊原は、こう言うしかなかった。
笹岡の自信たっぷりな態度が気に掛かった。やはり、MDが絡んでいる可能性も捨て切れなかったのだ。榊原はふと思い出し話題を変えた。
「そう言えば、犬山君は、高嶋方面本部長と親しいみたいだな。」
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