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シンクロニシティ10
第十三章
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 幸子の狂乱は収まりそうになかった。電話口で、榊原は何度も溜息をついては言葉を飲んだ。何を言っても彼女の不安を去らせることは不可能だ。一日くたくたになるほど歩きまわったが、今日も何の手がかりもない。幸子が悲痛な叫び声をあげた。
「あの子に何かあったら、私はどうしたらいいの。かけがえのない娘なの。どうにかして、お願い、夜も眠れないの。貴方は刑事さんなんだし、なんとかして、お願い。」
榊原はこの言葉にむっとなった。刑事物のテレビドラマではあるまいし、手がかりが都合よく飛び込で来るわけはないのだ。榊原も出来るだけのことをしている。まして動いているのは榊原一人である。
 洋介失踪と関係があると思い、今日は五反田の笹岡の事務所を訪ねたのだ。MD関連については高嶋がそうとう調べ上げていて笹岡まで辿り着いたのだが、製薬会社から被害届が出ない限り笹岡には手も足も出ない。高嶋の無念そうな顔が思い出された。
 笹岡は56歳、固太りの大男だ。白髪で品の良い顔立ちは、どう見ても元ヤクザの親分とは思えない。新橋駅近の雑居ビルに「ケーエスシー」と怪しげな看板をかかげ、若い事務の女性一人を置いている。突然訪ねると今しも出かける直前だったが、
「いえいえ、かまいません。こっちの方はどうせ野暮用だ。それより、桜田門の旦那がお尋ね下さったとあっては、用件を聞いてからじゃねえと、気になって用事どころじゃねえやな。」
と言って、榊原を応接に誘って、事務員に声を掛けた。「節っちゃん、コヒー三つ頼む。」
 節っちゃんと呼ばれた女性は週刊誌に目を落としたまま電話に手を伸ばした。1階にある喫茶店に注文するらしい。榊原はソファにどっかりと腰を落とし、いきなり聞いた。
「笹岡さん、上村組の飯島に既に聞いていると思うが、MDを盗んだ青年が姿を消した。そして今度はその恋人が失踪している。これはどういうことなんだ。」
笹岡はにっと笑った。疚しいところがないのか、或は胆力があるのか、どちらともとれた。
「はじめまして、榊原さん、飯島から聞いてるよ、あんたのことは。しかし、飯島も言っていたが、言いがかりもいい加減にしてもらいてえな。MDは戻ったんだ、俺にとって何の被害もねえ。何で今更その若い奴を拉致しなければならねんだ?ましてその恋人まで?冗談じゃねえよ。」
笹岡の声は途中から怒気と恫喝の響きが加わっていたが、事務員は何の反応も示さない。どうやら慣れているらしい。
「しかし、警察としてはそう考えざるを得ない。青年を追った時、飯島はチャカをちらつかせた。本人はモデルガンだと言っているが、俺はそうは思わん。それだけ必死だったってことだ。そうじゃないのか。」
笹岡はまたしても不適な笑みを浮かべた。榊原は警察という言葉を出して脅したのだが、笹岡はびくともしない。榊原は、あくま
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