暁 〜小説投稿サイト〜
シンクロニシティ10
第十二章
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 石田は人一倍感性が強い。妹が死んだと思われる時刻にも、両親が死亡事故を起こした時刻にも、胸騒ぎを覚え、息が乱れた。何がそうさせるのか分からないが、人並みはずれた感性を持っているのは確かだ。
 そしてもうひとつ、石田の石田たる所以がある。それは人の死が終着点でないこと、死が無を意味していないことを経験から知っていることだ。それは石田が中学一年の夏休み、祖父が亡くなり、その納骨式の日に体験した。
 納骨式が行われる日、再び親戚一同が集まった。女達の賑やかなおしゃべりが延々と続き、納骨式までの時間をつぶす一時だった。父と、その兄である叔父もお茶をすすっては、騒がしい女姉妹に苦笑いするばかりだった。
 その時、3歳になったばかりの石田の従兄弟が、昼寝から覚めると突然火の付いたように泣き出した。そして泣きじゃくりながら訴えたのだ。
「じっちゃんが、穴がない、穴がないって泣いてるよ。可哀相だよ。」
一同驚いて、悪い夢でも見たのだろうと、子供をあやそうとするのだが、抱こうとする母親の手を払いのけ、何度も何度も同じことを大人達に泣きながら訴えたのだ。
「じっちゃんが、可哀相だよ。穴がないって、泣いているんだ。可哀相だよ。」
大人達はその意味をはかりかねた。年端のいかぬ子供のざれごとと誰もが解釈し、笑ってその場をやりすごした。
 納骨式は順調に執り行われた。しかし、読経がすみ、墓石を動かす段になって、皆はてと首を傾げた。あるはずの墓穴が見つからないのだ。本来あるべき所になく、もしかしたらと思い、下の石も動かしてみたがやはり穴はない。
 その時、その場にい合わせた全員が、子供の訴えていた意味を理解するとともに、背筋が寒くなるような感覚を味わった。じいさんが子供の口を通じて自分の意思を伝えていたのだ。そこで石田が感じたことは、死、すなわち無ではないということだ。
 家に帰って数後日、そのことを思い出し、父に聞いた。
「やっぱり、死んだ人には墓が必要ってことなの。」
「さあ、どうかな。お父さんだってそれは分からない。でも、おじいちゃんって人は、冗談が好きで、ちょっと皮肉屋さんだった。それに家族ではいつも自分が中心でなければ気がすまない人だった。」
「だから?」
「だから…、」
笑みを浮かべ、遠くを見るような眼差しでこう続けたのだ。
「僕達を驚かそうと思ったんじゃないかな。誰一人、おじいちゃんのことを話題にもしていなかったから。」
「でも、なんで穴がなかったの。」
「おじいちゃんはお墓を二つ買っていたんだ。自分が先に死ぬと思っていたから、ひとつは墓穴を用意していた。もうひとつは息子夫婦用だからまだいいだろうと思っていた。だけど、叔母さんがおじいちゃんより先に死んじゃっただろ。」
「明叔父さんは、穴のある大き
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ