第十二章
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ているらしい。
応接に腰を掛けている佐伯係長に、駒田は顎で出て行くように指示した。秘密を知る人間はできる限り少ない方がよい。部屋を出ようとする佐伯に、駒田が声を掛けた。
「さっきの話しは聞かなかったことにしろ、いいな。」
「分かっております。」
佐伯は一礼してほっとしたような顔で部屋を去った。
「石川警部、あの情報屋には何を頼んだんだ。」
と言って、佐伯が漏れ聞いた話を語った。見る見るうちに石川の顔が青ざめてくる。聞き終わると、両掌で顔を覆い、そして額の汗を拭った。そして言った。
「私は少女を誘拐しろなんて一言も言っておりません。」
「当たり前だ。そんなことをしてみろ、こっちが犯罪者になってしまう。この前の情報屋の話では、榊原からDVDを預かった男がいて、そいつの部屋を家捜ししたが見つからなかったということだった。その後のことはどうなっている?」
「ええ、情報屋はその男に直接接触してみると言っていました。金が必要なら、こちらが用意する旨、申し伝えておきましたが…。」
「では、本当に、その少女の誘拐とは関係ないんだな。」
「ええ、ただ…」
「ただ何なのだ。」
「実は、情報屋が言うには、榊原の愛人の娘は相当のあばずれとかで、男友達の家に泊まって帰ってこないことも多いのだそうです。その娘を何とかしましょうかと言うので、つまり、旅行にでも連れ出して、その間、榊原に脅しをかけるみたいなことを言いましたので、それは止めておけと釘を刺しておきましたが。」
「おい、本当か、本当にそんなことを言っていたのか。おい、ぐずぐずするな、すぐその情報屋に会って、問い詰めろ、何もしてないってことを確かめるんだ。ぐずぐずするな。」
駒田の怒鳴り声が部屋を揺るがした。石川は追いたてられ、あたふたと部屋を出ていった。ドアの前で最敬礼するいつもの動作さえ忘れている。駒田課長の眉間に寄せられた深い皺に沿って脂汗が一滴流れた。
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