第十一章
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が、ちらりと石川を一瞥し、鼻でせせら笑った。そして無言で席を立った。
石川警部は憎憎しげにドアから出てゆくその後姿を見送った。駒田は「あんな奴は頼りにならん」と言い放つと、石川警部をじっと見詰めて言った。
「君に何とかしてもらいたい。」
石川警部はごくりと生唾を飲み込み、頷いた。
「また例の情報屋を使ってみましょうか。」
「そうだな。高崎まで尾行して、あの榊原に気付かれなかったのだから相当なやり手に違いない。何者なんだ。」
「私の隠し玉で、本業は何でも請負業みたいなもんです。何かと面倒を見ていますので、協力は惜しみません。実は、奴さん、面白い情報を手に入れてきました。これを見てください。」
胸のポケットから数枚の写真を取り出し、駒田に渡した。
「その情報屋が撮った写真ですが、面白いものが写っています。なかなか優秀な奴です。今度、課長にも紹介しますよ。」
写真に見入っていた駒田が咄嗟に答えた。
「おいおい、私が会う必要はないだろう。そういうことは君達レベルで処理してくれ。」
「はっ、申し訳ございません。そうさせていただきます。」
実は、石川は、その情報屋に駒田と引き合わせてくれるよう頼まれていたのだ。困惑顔の石川をおもねるように駒田が優しく声をかけた。
「しかし、あの榊原に女がいたとは、まったく驚きだ。とにかくよくやった。君の働きには評価に値する。さて、これが使えるかどうかだ。」
評価という言葉に、石川の鼻がぴくぴくと蠢いた。
「榊原はその女に夢中らしいのです。何か仕掛ければ面白いことになるかもしれません。」
「何か仕掛ける?その情報屋を使って?」
「ええ、中身は今思案中です。」
にやりとして駒田が答えた。
「よし、君に任せる、頼んだぞ。良い部下と出会えたことを神に感謝したいくらいだ。」
駒田が、ぎゅっと石川の両手を握って離さない。漸くそれから開放され、石川は「それでは」と言って席を立ったのだから、ドアを開けた途端、榊原本人と出くわして驚かないわけがない。後ろから来る足音に全神経を集中させながら、それが廊下を折れて遠ざかるとほっと胸を撫でおろした。
応接室には既に組長と飯島が待ち構えていた。秘書の女性に案内され、榊原が部屋に入ってゆくと、組長は立ち上がり、少し腰を落とし気味にして頭を下げた。飯島はしかたなさそうにそれに倣った。ソファに座る早々、榊原は切り出した。咄嗟の反応を見るためだ。
「あのMDを盗んだ青年が消えちまったよ。金沢の両親が捜索願いを出したそうだ。心当たりはないかね。」
二人は一瞬、顔を見合わせ驚きの表情を浮かべ、まず組長が答えた。
「榊原さん、それは我々の預かり知らぬことだ。あの件は、あれで決着したはずだ。互いに納得して、恨みっこなしって
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