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シンクロニシティ10
第十一章
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さん、これだけは勘違いしないで下さい。けっしてそのことに蓋をしようとして言っているのではないのです。これだけは信じて下さい。あくまでも、磯田さんの霊とご遺族のために言っているんです。」
「確かにあのDVDを法廷に出したところで、平山署長や坂本警部が捜査に手心加えたなんて証言するわけはないのは分かっています。しかし、やり方によっては…」
「榊原さんの言う、そのやり方とは何です?まさかマスコミに流すと言うんじゃないでしょうね。」
 心の片隅に巣食っていたやけっぱちを言い当てられ、榊原はうっと息を詰まらせた。激情に駆られてそのことを何度も考えた。しかし、冷静になればそれは大変な問題を引き起こすことは想像できるが、その波紋がどこまで広がるのかは想像も出来ない。
「榊原さん、それを榊原さんが保管していることは何も言いません。駒田の暴走を抑えることが出来ますからね。でも、マスコミに流すことだけは思い留まってください。もし、世間に公表されれば警察の威信は地に落ちます。その影響は計り知れません。」
 榊原はまじまじと高嶋の顔を見詰めた。切々と訴える高嶋の金縁眼鏡は汗で曇っている。高嶋は自分でも気が付いて、眼鏡をはずすと、ハンカチを取り出してレンズを拭った。マスコミという言葉が高嶋の心に恐慌をもたらせたようだ。
 やはり、キャリアだ、と榊原は思った。自分たちの権威を守ろうと必死になっている。榊原はそんな思いなど露ほども見せず、高嶋の言葉を遮った。
「高嶋さん、最初からそんなことなど考えていませんから、安心してください。」
 思いのほか大きな声に榊原自身驚いた。高嶋は一瞬言葉を失い、視線を漂わせた。榊原は慌てて言い添えた。
「高嶋さんの言いたいことは良く分かりました。私も警察の一員です。決してマスコミに流すようなことは致しません。約束します。」
 榊原が約束という言葉を使ったことで、高嶋もようやく安心したようだ。いずれにせよ、キャリアの力は絶大で、今後もその力を借りなければならないことは確かなのだ。

 部屋を退出し、榊原が会議室にさしかかると、そのドアが開き石川警部と鉢合わせになった。目があうと、石川の視線が激しく揺れた。それでも動揺を悟られまいと咳をひとつ。そして榊原の存在など無視するように、顔を背けて歩き出した。
 その少し前、その会議室では、駒田四課長、石川警部、坂本警部の三人で密談が行われていた。榊原が本物のDVDを入手したという確かな情報が寄せられ、どう対処するか話し合われたのである。   
 この情報をもたらしたのは、石川警部が親しくしている情報屋である。この情報屋は高崎の歯科医宅で、密かに植え込みの中に隠れ、榊原の大喝を聞いている。石川警部がその一部始終を話し終えると、駒田課長はこう切り出したものだ。

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