第十一章
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頬が震えて漸く笑みを作る。石田の心にその顔が深く印象に残った。
数日後、榊原は晴海の悲痛な声を聞いていた。
「おっちゃん、どうしたらいいの。洋介が行方不明なの。思い余って洋介の実家に電話をかけたの。そしたら、家には帰っていないって。帰るという電話があって実家では待っていたそうよ。だけど帰ると言った日に帰らず、もう1週間も連絡がとれないって。捜索願を出すそうよ。」
「晴海ちゃん、そう興奮しなさんな。例の件は親分さんに話を通したから絶対に大丈夫だ。ワシが保証する。それに男っていうのは時々ふらりとどっかへ行きたくなることもあるんだ。」
「違うわ、私、胸騒ぎがするの。私って人より敏感なところがあるの。」
「ああ、分かった。兎に角、明日にでもその親分さんに会って話してみよう。」
「でも、誘拐しましたなんて、正直に言うわけないでしょう。」
「いや、話してみて、その表情や態度を見るんだ。ワシはそっちの方の目は確かだからな。晴美ちゃん、兎に角落ち付いて。」
晴海の興奮はなかなかおさまらなかったが、榊原が忍耐強く話を聞いてやると、次第に落ち付きを取り戻した。明日電話を入れることを約束して話を終えた。
翌日、榊原は上村組長にその日の午後にアポをとった。レディースクレジットの飯島も同席させるよう言付けた。そして、ため息を洩らした。どうやら、しばらく惚けていたが、高嶋方面本部長の部屋に行かなければならなくなったようだ。
1週間も前、高嶋からMDの解読が出来たと連絡を受けていた。電話で内容を聞こうとする榊枝に、「暇な時に部屋に来て、目を通したらいい。」と言うのだ。しかし、暇はあるのだが、部屋には行く気がしなかった。
というのは、高嶋には高崎の件で、成果はなかったと嘘の報告をしていたからだ。実は、高嶋も地方の警察署長を歴任しており、間違いなく餞別を受け取っている。DVDの内容がキャリアに対する餞別であったなどと言えば、高嶋自身も二の足を踏むに違いない。
部屋に行けば高崎の件の詳細を聞かれる可能性がある。榊原は嘘が顔に出る性質だ。部屋には行きたくなかったのだが、レディスクレジットの専務、飯島に会うともなれば、MDの内容を知っておかなければならない。
高嶋はにこやかに榊原を出迎え、嫌味を一言。
「お忙しい榊原さんに、ようやく暇が出来たようですね。」
「いやまったくもって申し訳ございません。こちらが無理にお願いしたことなのに。」
高崎の件に触れられたら、嘘をつきとおすつもりでいた。
「いえ、どうということはないですよ。うちの暗号解読チームは優秀ですから、あっという間に解読したようですよ。で、やはり情報ブローカーっていうのは間違いありませんね。」
「と、言うと?」
高嶋は満足そうに微笑んでい
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