第十章
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駒田が捜査四課長に就任して一月が経とうとしている。いずれは、ばったりと顔を会わせることになると思うが、今のところ、榊原が巧妙に避けているのでまともに出くわしたことはない。あの会見以後、小川総務部長は榊原に声を掛けることもなく転勤していった。
いずれにせよ、小川総務部長は上層部に榊原の話を申し送りしている。キャリアを守るための榊原包囲網が出来あがっているのは間違いない。組織は、警察庁キャリアを守るために全力を注ぐ。守りきることで、自らの出世が保証されるのだから。
とはいえ、榊原は上村組長をあぶり出す秘策について、唯一信頼できるキャリア、高嶋に協力を要請していた。それは榊原の身を危険に晒すことになると高嶋は反対したが、これ以外の方法は思いつかなかったのだ。それは榊原がDVDのコピーを入手したという噂を警視庁内で流すことだ。
榊原は外部からの電話に出て、大げさに芝居を打った。「本当か、本当に手に入ったんだな。」と聞こえよがしに何度か繰り返し、部屋を跳び出た。尾行が着くことは最初から計算に入れていた。新宿駅東口でホームレスの男から紙袋を受け取った。
ホームレスは見知らぬ男から頼まれ、それを持ってそこに立っていただけだ。その紙袋をホームレスに渡したのは、榊原とコンビを組んでいる瀬川だ。この男とは3年の付き合いになるが、勝気で正義感が強く、刑事になるべくしてなったような男である。
大事そうに紙袋をかかえ、榊原がちらりと振り返ると、案の定、尾行がついていた。坂本の相棒の須藤だ。しかし、マル暴デカの尾行はお粗末だ。だいたい格好が目立ち過ぎる。榊原はデパート内で須藤をまき、紙袋をトイレのゴミ箱に捨てた。これで用意は整った。
その後、適当に噂を流し、後は待つだけになっていた。榊原の上司である佐伯係長も駒田課長のスパイである。水面下で何かがうごめいている気配はあるが、表面上は何事もなく既に1週間が過ぎようとしていた。
今も佐伯係長はちらちらと榊原を窺う。とはいえ神経を集中している訳ではない。佐伯は警部だが、まだ管理職試験に合格していない。この試験に合格しなければそれ以上の出世は望めない。二係では過去の事件記録を読み漁ることもしばしばだが、佐伯はそれを隠れ蓑に受験勉強にいそしんでいるのだ。
そんなことは誰もが知っているのだが、佐伯は気付かれていないと思っている。話しかけると、資料の山に隠されたノートをさっと閉じたりする。思わず苦笑いするのだが、その苦笑いの意味さえ思い付かない。鈍い男である。
上村組の事件に、佐伯は最初から積極的ではなかった。というより、何度も捜査の邪魔をし、足を引っ張った。そして今度は榊原包囲網の一員となって探りを入れているのだ。しかし、こんな男が警察組織のなかでは出世してゆく。
電
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