第十章
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だ。榊原の読みは当たっていた。
麻取りの盗聴の事実を言えないのであれば、ここに賭けてみるしかなかった。安岡はどさりとソファに腰を落とした。安岡は、秋川由紀の事件と預かった物が関係しているなど、思いもしなかったはずだ。
安岡は顔面蒼白だった。か細い声が響いた。
「私は、ただ預かっただけだ。秋川さんの事件は週刊誌で読んだ。まさかあの記事が上村と関係していたなんて思ってもみなかった。上村は警察に罠をかけられたと言った。その無実を証明するDVDだと聞いて、それを信じただけだ。」
それだけ言うと、ソファーから立ちあがった。部屋を出て行く。瀬川が焦って立ちあがろうとするのを手で制して呟くように言った。
「大丈夫だ。DVDを取りにいっただけだ。」
放心したように安岡の後姿を見送った瀬川が、榊原を振り返って言った。
「しかし、榊原さんの啖呵には驚きました。ヤクザより凄みがありましたよ。いやー、ついて来て良かった。こんなに興奮したのは初めてですよ。まったく榊原さんは凄い。」
瀬川の尊敬の眼差しを避けて、榊原は煙草を取り出し火を点けた。深く吸い込んで長く吐き出した。賭けに勝った。冷や汗が腋の下を濡らす。安堵の溜息を煙草の煙で誤魔化した。
ブツは何重にも包装され、開け口は緑色の蝋と印で封印されていた。中身を入れ替えて、前とそっくり同じ状態で返却することを条件に借り受けた。その処置は、鴻巣警察署に大学の同期の戸塚という警部がおり、そこに持ち込んでやってもらうことになっていた。
鴻巣警察署で待つこと20分、応接室にDVDが届けられた。戸塚が制服警官に声をかけた。
「ご苦労、で、元通りになってるか。」
「はい、殆ど分かりません。」
「そうか、それをさっき渡したメモの住所に送っておいてくれ、頼んだぞ。」
そんなやり取りの間も惜しんで、榊原はDVDを戸塚からひったくり、デッキの挿入口に押し込んだ。スイッチが入れられ、画面が揺れる。しばらくザーザーという電子的な映像が続くが、いきなりソファに座る男の顔が映し出された。
知った男だった。思わず瀬川と顔を見合わせた。画面が引いて、そこが新宿の上村興業のビルであることは、窓から都庁ビルが見えることで分かった。ズームレンズを自在に操っている。隠しカメラを別室で操作しているのだ。
音声も普通のDVDの比ではなく実に明瞭だ。マイクも応接セットのどこかに埋め込まれている。恐らく、榊原が組長と対談した池袋のビルにおいてもDVDが回っていたはずである。上村の狡猾さは思った以上だった。
10分ほどでテープは終わった。誰も口をきこうとはしない。榊原が大きな溜息を吐いた。戸塚は俯いたまま黙り込んでいる。瀬川が口火を切った。
「糞ったれが。警察なんて糞ったれだ。ヤクザの方がましじ
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