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シンクロニシティ10
第十章
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害を受けた。一人は殺され、一人は行方不明だ。勿論、証拠はない、まして渋川のお嬢さんの死体が発見されないんじゃ警察としては動きようがない。渋川のOL失踪事件は上毛新聞にも載ったはずだ。」
安岡は怒りを顔に顕わにした。
「いったい何の話しをしているのです。私は、何のことだかさっぱり分からない。いきなりそんな話しを聞かされて言葉も出ない程です。」
榊原が、立ち上がりそうな勢いの安岡に負けず劣らず語気鋭く切り込む。
「ワシは、お嬢さんの生存を信じて、帰りを待っている渋川の秋川さんのために、命を懸けている。あんたは、男が命を懸けるということの意味が分かるか。何者をも恐れないということだ。」
安岡は立ちあがり、怒鳴った。
「帰ってくれ、今すぐ帰ってくれ。帰らなければ警察を呼ぶぞ。」
部屋を揺るがすような、どすのきいた唸り声が響いた。
「ワシがここにこうして座っているってことは、この首も惜しくないってことだ。もし首になれば洗いざらいマスコミにぶちまけてやるつもりだ。ヤクザのお先棒を担いだあんたのこともな。」
マスコミ、そしてヤクザという言葉に、安岡がぴくりと反応した。あの記事を安岡も読んでいる。被害者が近隣の娘なのだ。
「上村君はヤクザじゃない。実業家だ。埼玉に本社のある熊谷土建の会長だ。昔はテキヤだったらしいが、今はれっきとした実業家だ。」
「奴は今でもヤクザの事務所を持っている。いいか、熊谷土建の元社長は騙されて会社を乗っ取られたんだ。奴が闇金融の元締めだってことをあんたは知っているのか。健全な企業を食い物にしているダニだ。」
 安岡の目に不安の色が浮かぶ。立ちあがったままだが部屋を退出する訳でもない。振り上げた拳はもはや行き場を失っている。榊原はここで手の内を明かし、相手に揺さぶりをかけることにした。諭すような声が響く。
「上村からDVDを預かっているのは、あんただけじゃないんだ。あんたを含め三人が預かった。そのうちの一人を別件でしょっ引くつもりだ。そいつが吐けば、あんたも芋ずるだ。秋川さんのお嬢さんの命を奪った、上村の弟のお先棒を担いだことになる。」
育ちの良い男には恫喝するに限る。恫喝に慣れていない。安岡の声は震えていた。
「あれは、自分の無実を証明する映像が映っていると聞いた。だから万が一、上村君が警察に捕まるようなことがあれば新聞社に送る手筈になっていた。」
「違うんだ、安岡さん。奴はそのDVDをネタに警察を恫喝しているんだ。秋川さんの事件にも、もう一人の女性の死にも、これ以上手を出すと、DVDを世間に公表すると、警察を恫喝しているんだ。そしてあんたはその手先になっている。」
安岡の手はぶるぶると震えていた。恐らく預かったDVDは見ていない。頭の良い上村は中身を見せない形でDVDを預けたはず
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