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シンクロニシティ10
第九章
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だが、一人で飲むのも寂しくてな」と駐在所に入って行くと、
「あんたも、俺に似て頑固な人だな。」
と言って、裏の宿舎を指差した。先に行って寛いでいてくれと言う。榊原は内心小躍りして喜んだものだ。
 石井はなかなか真相を語ろうとはしなかったが、酔いが回ってくると、徐々に心の鬱積を吐き出すかのように語り出した。話はこうだ。池袋署の署長、副署長が、ある時点から、何かに怯え始めた。上村組の追及にストップがかかったのはそれが原因だという。
 さらに、坂本警部補は大学の先輩である副署長から相談を受け、上村組と交渉していた。坂本がちらりと「DVD」と言ったのを石井は覚えていた。何が映っているのかは想像もつかないと言う。
 また、酔った石井の口から漏れた言葉で、長年の疑問が氷解した。石井はこう言ったのである。
「あの週刊誌の記事覚えています?実はあれは俺が週刊誌に漏らしたんです。」
その週刊誌の記事とは、OL失踪と、新たな証言者の自殺に或る組の人物が関わっているという内容だった。
 この人物は、池袋署の署長の弱みを握り、それをネタに捜査に揺さぶりをかけたという。どう考えても内部の人間にしか知り得ない内容を多く含んでいたのである。その告発者が目の前にいる石井だったのだ。
 しかし、ここで一つの大きな疑問が新たに出現した。証人の居場所を誰が上村に流したかという疑問である。内部から情報が漏れたのは確かなのだが、榊原はそれが坂本警部補だと思っていた。しかし、石井はこれを一笑にふしたのだ。「それはありえない」のだそうだ。では誰が?
 確かに坂本警部補の豹変は皆の驚きを誘ったと言う。警察組織の中でも決して上に媚を売らず、ヤクザに対して毅然と接する姿は警官の見本ともいうべき男だった。その男があの事件に関わってから変わってしまった。
 その事件後、坂本警部補はキャリアである池袋署の署長と親しく飲むようになったのだそうだ。その署長は名前を平山勝といい、5年前、池袋署長から愛知県警へ、そして今は警察庁の捜査二課長と順調に出世している。
 
 石井巡査部長の坂本警部補に対する人物評が甘いということも考えたが、少なくとも石井は馬鹿ではない。鋭い嗅覚を持っているのは確かだ。だとすると、坂本が副署長に相談されてやむを得ず情報を漏らした可能性はないかと石井に問うと、こう答えた。
「榊原さん、署長、副所長が何かに怯えはじめ、坂本さんが村上と交渉を始めたのは、植村の情婦が殺された後だ。それに、俺は坂本さんを今でも信じている。彼は不正を心から憎んでいる。俺の言えることはこれだけだ。」
榊原をじっと睨みすえ、そして視線をそらすと続けた。
「しかし、以前から感じていたんだが、上村組には強い力、例えば、政治家とか、警察権力とか、裏に付いていそうな気がする
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