第九章
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出たのはOLだけで、正敏からは何の反応も出なかった。そして、彼はこう言い張ったのである。
「俺は、もしシャブを打ったことがバレれば、たとえ組長の弟であってもそれなりの落とし前をつけなきゃなんねえ。そんな俺が、シャブを自分の女に打ったって。馬鹿もやすみやすみ言えってえの。女がシャブをこっそりやってるいるのを見つけて、張り倒しただけだ。」
二人の言い分は平行線のまま幕引きとなり、OLは群馬の実家に引き取られた。しかし、一月ほど後、OLは、前橋駅で友人と夜11時に別れて岐路に付いたのだが、家には辿り着かなかった。自宅近くの住民が深夜、女性の悲鳴を聞いている。
榊原がビデオの存在にたどり付いたのは、もう一つの上村に絡む事件の継続捜査においてである。この事件は自殺として闇から闇に葬られたのだが、今一歩というところまで真相に肉薄した刑事がいたのである。
それは坂本警部補の部下だった石井巡査部長である。事件から4年後、彼は奥多摩の山奥の駐在所勤務となっていた。榊原が休暇をとって、彼を訪ねたのは一昨年、新緑が目に沁みる季節だった。
「あんたが、榊原先生か。その先生が俺に何の用だ。」
挑むようなその目は濁っており、昨夜の深酒の名残だ。
「上村正敏を、いま少しのところまで追い詰めたのに、残念だったな。」
石井の死んだような瞳に一瞬輝きが戻ったかに見えたが、すぐに暗く沈んだ。新証言に辿り着いたのもつかぬま、その証人が消されてしまったのだ。ぽつりと漏らした。
「俺も甘かった。まさか病院に忍び込んで、自分の情婦を殺すなんて。彼女はシャブを断って更正しようとしていた。正敏って奴は本当に唾棄すべき男だ。」
と言って、目を潤ませた。石井はこの情婦から正敏が女を攻落するのに常にシャブを使用していたという証言を引き出していたのだ。
しかし、いよいよ正敏を引っ張ろうとした矢先、女は病室で首を吊り死んでいたのである。自殺、他殺の線で捜査陣は揉めたが、これは榊原が想像だが、坂本の巧みな誘導に引きずられるかたちで自殺の線で落ち付いてしまった。
「坂本さんは本庁に戻されて警部に出世した。それに引き換え、君は何故ここにいるんだ。優秀な刑事だった男が。」
石井はじろりと榊原を睨み、言ったものだ。
「坂本先輩をとやかく言う人がいるのは知っている。しかし、坂本さんは、坂本さんなりの考えがあってやっているんだろう。俺はそこまでやる気がなかっただけだ。」
「そこまで、とは?」
ぷいと横を向いて呟くように言った。
「とにかく、話すことはない。帰ってくれ。」
榊原は民宿に宿をとり、夕暮れ時も行ってみたが頑として口を開こうとしない。翌朝も同様だったが、その日の夕刻、ジャックダニエル二本を手に携え、にこにことして「明日は帰ろうと思うん
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