第八章
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り、内線電話を掛けた。飯島を呼んだのだ。暫く無言で向き合っていると、ドアが開き背の高い男が入って来た。ゆっくりと歩いて組長の前に佇んだ。渋い二枚目といったところだ。
「お前、二週間前、モデルガンちらつかせて若い男を追いかけたって?」
こう言いながら、榊原に笑いかけた。榊原も苦笑いを浮かべている。
「はい、知り合いが大事な鞄を盗まれたって聞きまして、そいつの人相風体を聞いて追いかけました。」
「刑事さんは鞄じゃなく、MDだと言っている。」
「MDって何です。」
「何でもいい、少なくとも鞄じゃない。」
「まあ、何であろうと、頼まれたもんで盗まれたものを取り戻そうとしたわけです。」
上村が向き直って榊原に言った。
「ということらしい。」
「なるほど、しかし、その若者は反省している。MDを返したいと言っている。許してやってくれんか?」
榊原は飯島に向かって言ったのだが、飯島は無視している。組長が間に入った。
「どうなんだ、飯島。お前の知り合いは何と言っている。」
「さあ、分かりません。あれ以来会っていませんから。」
「それじゃ、いますぐ連絡してみろ。」
飯島は携帯を取り出すと、静かな声で話し出した。要領よく説明するところをみると、それなりに頭は良さそうだ。「はい、はい、」と短く答える声だけが響く。榊原は組長を観察していた。
間違いなくこの組長も電話の相手を知っている。見ず知らずの男に自分の組員が命令されるのを無視することなど絶対あり得ない。広い事務所に飯島のきっぱりとした声が響く。
「分かりました。そのように伝えます。」
こう言って、携帯を胸にしまうと組長に向かって言った。
「MDを返してくれるのであれば、問題にしないと言っています。告訴も考えていたようですが、取り下げてもよいとのことです。」
上村は鷹揚に頷くと、榊原に向き直った。
「こんなことでいかがでしょうか。」
榊原は、にやりと微笑みポケットからMDを取り出すと机の上に置いた。飯島の視線が揺れるのを飯島は見逃さなかった。飯島がゆったりと口を開いた。
「刑事さん、確認して置きたいんだが、まさかコピーなどしてないだろうな。先方さんはある企業の重役だ。もしこの情報が外に漏れると大変なことになる。つまり、あの若造のとった行動は窃盗だ。あんたは、その窃盗の告訴を取り下げることを条件にバーター取引を申し込んでいるんだ。本来刑事が関わるべきことじゃねえ。」
「コピーなんかしていねえよ。それに、バータ取引なんて言うが、若者の将来を考えて情状酌量ってこともあるだろう。」
「いや違うね、告発すれば刑事事件になる。あんたはその当事者ではなく、ヤクザの組長に、その取り下げをお願いに来ている。問題じゃないかね。」
「しかし、まだ
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