第八章
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うことらしい。中に入ると部屋は20畳ほどの広さで、真中に皮張りの豪華な応接ソファが置いてある。既にコヒーが用意されていた。
榊原は上村組長の前のソファにどっかりと腰を据えると、開口一番その印象を伝えた。
「テキヤの親分さんの事務所と言うより、一流企業の社長室といった分囲気ですな、いや、ご立派ご立派。」
にっこりと笑い、上村が答えた。
「有難うございます。みなさんそうおしゃいます。中畑さんが、ここの方がいいと仰るものですから。何故、新宿の事務所ではいけなかったのですか。」
上村組長は新宿にやはり10階建てのビルを所有し、上村興業鰍フ看板を掲げている。傘下に入る五つの会社の親会社である。中畑が答えた。
「企業人の上村社長じゃなく、テキヤの親分の上村組長に話があったんだ。」
上村は鷹揚に何度も頷いて、視線を榊原に戻した。
年齢は榊原より2歳上と聞いていたが、50歳を越えているように見える。鼻梁が曲がっており、喧嘩に明け暮れたという昔の名残なのだろう。眉が太く、眼光は鋭い。中畑に負けないほどの体躯を前に傾けながら座り直した。榊原が付け加える。
「それに、神農と天照を祭った神棚もない。」
上村が笑いながら、それに答えた。
「実は、昔ながらの組長室はこの下、三階にあるんですよ。もともとテキヤ出身ですから伝統は重んじますので、そこにはその神棚も飾ってあります。ここは、いわゆるビジネスのためのスペースです。」
「そうそう、自己紹介が遅れた。中畑がなかなか紹介してくれないから。」
横を見ると、中畑は瞼をようやく開けている状態で、それどころではないらしい。
「ワシは警視庁捜査一課の榊原だ。以後お見知り置きを。」
こう言って少し腰を上げて挨拶した。上村も同様の仕草で応えた。
「さっそくですが、組長さん。ちょっと頼まれてほしいんだ。たいしたことじゃない。ある若者の無礼を許してもらいたいんだ。」
「そう言われても、なんのことやら。」
「実は二週間前、或若者が男の新聞を盗んだ。ただの新聞じゃない。中にMDが挟みこまれていたそうだ。」
植村がきょとんとした顔で聞き返す。
「そのMDってのは何です?」
「フロピーディスクの進化したやつで、10センチくらいの円盤に情報がぎっしり詰まっている」
「どんな情報だったんです?」
「さあ、分からん。何か重要なものだっただろう。おたくの幹部が拳銃をちらつかせてその若者を追いかけたんだから。」
「榊原さん、それは本当の話ですか。だいちMDなんてうちが関係するような話じゃない。」
「いや、追いかけたのは確かにお宅の組員だよ。飯島敏明、あんたの弟が社長をやってるレディースクレジットウエムラの専務さんだ。さっきちらっと見たぞ、2階で。」
組長は立ちあが
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