第八章
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うがねえな。でも、昨日も言ったけど、上村組なら本庁に行った坂本辰夫のほうが顔は利く。俺なんてまだ日が浅いし、あいつに頼んだほうがいいと思うんだが。」
「ああ、坂本警部殿か。そうかもしれん。だけどワシはあいつは好かん。」
にやりと笑って中畑が吐き捨てるように言った。
「ああ、胡散臭い男だ。ヤクザの上前をはねるよな奴さ。そんな奴が警部試験に合格して、本庁にご栄転とは警視庁も腐ったもんだ、まったく。」
榊原は聞こえないふりをしていたのだが、中畑の鋭い人物評価に思わず頷いてしまった。坂本警部は池袋署にいた頃から上村組との黒い噂が絶えなかった。榊原の妄想が暴走する。坂本は上村組が関わったあの殺人事件のもみ消しに動いたのではないか。
豊島区役所に向かう道から右に折れると狭い路地がある。その路地の両側には飲み屋、ピンサロ、韓国エステなどが軒を連ねて、どぎつい看板が立ち並ぶ。さすがに客引きの姿はないが、夜ともなれば彼らの口からそのものずばりの口説き文句が飛びだすのだろう。「旦那、一発抜きませんか」などと。
上村組のビルは奥まった路地の一角にあった。地上5階建て、一階は駐車場になっており、黒塗りのベンツの他、5台の車が止めてある。ビルの横に階段があり、そこを上りきると分厚そうな鉄のドアがデンと構えている。監視カメラが二人を追って動く。
中畑がブザーを押すと、すぐに扉は開かれた。若い男が立って、「どうぞ」と頭を下げて中に招き入れた。中畑は「どうも、どうも」と例の高いトーンで言葉を発し、勝手知ったる我が家に上がるがごとくずかずかと奥へと進んで行く。
6人程の若い衆が立ちあがり、腰を直角に曲げて挨拶する。中畑の「どうもどうも」が繰り返され、奥のエレベータに近づいていった。先ほどドアを開けてくれた若者が二人を追い越し、先回りして、エレベータのボタンを押した。
エレベータに乗り込み、入り口の方をみると右手の応接に男が座っており、二人を窺っている様子だ。写真でしか見ていないが、例の男に違いなかった。エレベータのドアが閉まると、榊原が口を開いた。
「目つきは鋭いが、随分と礼儀正しいヤクザじゃねえか。まして、いかにもヤクザってな格好はしていない。」
「ああ、上村の方針らしい。これからのヤクザのシノギは一目でヤクザでございってな格好でやるような単純なものじゃ駄目だと言っているらしい。」
「確かに紳士然とした奴が、突然ヤクザに豹変したほうが、素人には恐怖を与える。」
エレベーターのドアが開き、前には大理石の壁が立ちはだかっている。右手にドアがあり、そのドアが開かれ、男が顔を出した。「どうぞ」と言うと、中に消えた。
ドアを抜けると、右手に受け付カウンターはあるが受付嬢の姿はない。左手にあるドアが少し開いており、そこから入れとい
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