第八章
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のナシワリ捜査の疲れがどっと足腰にきた。思ってもいない結末に頭が真っ白になってしまったのだ。
石川警部に対する唯一の優越意識は榊原の推理力だった。権力機構の中でがんじがらめに縛られ、それでも彼の顔面に一撃を与えるたった一つの希望が潰えたのである。そして、あの日、石川警部は榊原の追い落としの好機と睨んで行動を起こした。
衆目のなか、石川が榊原を怒鳴りつけたという話は、着任すれば早々に駒田の耳に入るだろう。榊原は警視庁で名刑事と謳われ、怒らせると怖い存在と囁かれた。その男と渡り合ったという逸話は、まさに絶妙なタイミングで作られたのである。
駒田は間違いなく報復人事を画策する。最悪の場合、箱に戻されるか、或は僻地に飛ばされる可能性だってある。刑事畑に馴染んで十一年、その地位を得るために必死で頑張った機動捜査隊の頃のことが脳裏に浮かぶ。
あれだけ小川総務部長を脅したのだから時間稼ぎにはなるだろうが、それがいつまで持つかは分からない。兎に角、証拠となるブツを入手することだ。それしか、彼らの鼻をあかす手段はない。
マスコミが喜びそうな不正など掃いて捨てるほどあるが、そんなことで脅すなど榊原の流儀ではない。あの事件こそ、警察不祥事の詰まったパンドラの箱のような気がする。上司が横槍を入れてきて、榊原のやる気を削いだ、あの事件だ。
県警本部長の首をとった山口県警のノンキャリアの向こうを張って、どでかい報復を考えていた。もしこれが榊原の推理通りであれば警視庁始まって以来のスキャンダルになるはずだ。兎に角、ブツを手に入れることに全力を注ぐ決意を固めた。
翌日、目覚めて寝床の時計を見ると既に10時を過ぎていた。とっさに飛び起きたが、久々に休暇をとっていたことを思い出した。女房は子供を預けてパートに出かけている。二日酔いで頭ががんがんと痛む。
電話が鳴った。恐らく石田だろう。用件は分かっていた。先に幸子に聞いてしまったが、それを隠す必要はないだろう。いずれ幸子のことも、話さなければならないかもしれない。受話器をとると、案の定、聞き覚えのある声が響いた。
「もしもし、石田と申します。榊原さんはご在宅でしょうか。」
「もしもし、ワシだ。その、ご在宅中だ。携帯に電話くれたみたいだけど、ポケットに入れっぱなしで、留守電も今日聞いた。」
「そんなことだろうと思っていたよ。でも、警視庁にも電話いれて、折り返ししてくれるように頼んだんだが」
「いや、何も聞いていない。きっと伝言するのを忘れたんだろう。」
実際、そんな伝言は聞いてはいない。数人の同僚の顔を思い浮かべ、心の内で舌打ちした。
「ところで、今、九州だ。女房の叔父さんの家を訪ねた。知らぬ存ぜぬだ。どうも怪しい。恐らく知っていると思う。」
「
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