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シンクロニシティ10
第六章
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が引き取ることにしたのだ。
 その中に住所録があり、その叔父の住所がわかったのだ。北九州市に家族で身を寄せている可能性がある。そう思うと居ても立ってもいられない気分だった。亜由美のことを思うと可哀想でしかたがない。
 亜由美は惨めさに耐えられるだろうか。何不自由なく育った亜由美が年老いた両親と逃亡生活を送っている。住民票は移しておらず、行方は探りようがない。借金取りから逃れるにはしかたなかったのかもしれない。
 かつて、石田が甲府の亜由美の実家を訊ねた時、父親である戸塚修三は上機嫌で石田を迎えた。石田が技術屋であることが修三を喜ばせた。宝石の卸商に限界を感じていたようで、技術屋という言葉を何度も満足そうに口にしていた。
 修三は押し出しの強い自信家で石田の苦手なタイプであったが、娘婿を心から歓迎してくれた。一人娘にもかかわらず、外に出すことも覚悟していたし、家業が自分で終りになることも納得していた。
 
 亜由美は父親を心から尊敬していた。父親が被害者になった詐欺事件が新聞紙上を賑わせたときでさえ、その父親を信じ切っていた。絶対に大丈夫と言って憚らなかった。だからこそ、その父親を捨て切れなかったのだろう。
 石田が最初に修三に逆らったのは、結婚後の新居のことだった。修三は3500万円する新居をプレゼントするというのだ。まだ、修三も景気が良かった頃で、亜由美は当然のごとくそれを受け入れていた。しかし、石田にはどうしても納得できなかったのだ。
 石田は両親が残してくれた千葉の家を売って、その物件を買った。修三は何が不満なのか分からなかったようだし、亜由美も不服そうだった。その物件を内緒で抵当に入れていたのだから、亜由美は石田に会わす顔がなかったのだろう。
 しかし、何故相談してくれなかったのか。相談してくれれば最悪の事態は免れたはずだ。もしマンションを売ってくれと頼まれれば躊躇なく売って義父を助けた。詐欺事件の時、或る程度覚悟はしていたのだ。相談さえしてくれれば、と思う。
 石田は夫婦互いに信頼しあっていると思っていた。何の問題もないと、そう信じていた。しかし、二人はどこかで擦れ違っていたのだ。仕事が忙し過ぎたこともあったが、それだけではない、何かがあったのだ。

 亜由美は石田ではなく父親を選んだ。この事実が石田の自信を失わせた。亜由美が相談しなかったことは、やはり二人の間には知らぬ間に溝が出来ていたことを物語っていた。石田が信じて疑わなかった家族の絆は単に幻想でしかなかたのかもしれない。
 石田は目の前にあるパソコンの実行キーを押した。図面が現れた。何度も描き直した図面だ。これが、またしても変更になる。馬鹿野郎と図面に書きなぐった。氏家部長はそれを見て、後ろで「俺は最初からこうなると思っていたんだ。」と言って
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