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シンクロニシティ10
第六章
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買ったのだ。しかし、今はそんなことを言って惜しがっている場合ではない。
 ふと、隣を見ると、予備校生らしき若者が膝に参考書を広げたまま寝入っている。洋介は立ちあがり、そっとリックを若者の上の網棚に載せた。電車は既に大塚を過ぎ、巣鴨の駅に入ろうとしている。洋介は思い切って男に向って歩き始めた。両手をポケットに入れ、外の流れる景色を見ながら歩いた。
 スポットライトに照らされ桜の木々が浮かびあがった。桜の蕾がほころびはじめている。春の訪れを感じ、季節の移り変わり眺めている。そう自分に言い聞かせた。冷や汗が滲む。袖で額の汗を拭う。男がだんだん近付いて来た。
 男に気付かれぬよう深呼吸をした。落ち付け、落ち付けと何度も自分に言い聞かせた。男との距離は5メートル。早咲きの桜が目に飛び込んで来た。立ち止まって目で追った。「へーもう3分咲きじゃねえか。」と独り言を呟いた。
 桜を振りかえっている最中に男と擦れ違った。ゆっくりと歩き出した。徐々に早足になる。車両の間のドアを後手に閉めた時、男を振りかえった。男は予備校生にグレゴリーのリックを突き付けている。
 洋介は走り出した。「すいません」と声を掛けながら走った。巣鴨の駅に電車が入った。振りかえると男も走り始めた。なかなかドアが開かない。数人の若者がたむろしている。洋介が叫んだ。「すんません、急いでいます」と。若者達が道を開けてくれた。男との距離は一両しかない。徐々に電車のスピードが落ちてゆく。
 次ぎの車両で振りかえると、若者の一人が男の袖を掴んで、何やら怒鳴っている。どうやらぶつかって因縁をつけられているのだろう。ほくそえんでいたが、次ぎの瞬間、度肝を抜かれた。男が拳銃を若者達に向けている。
 洋介は必死で走った。大変な奴等を敵に回してしまったらしい。電車がようやく止って、ドアが開いた。幸いにも階段の手前だ。電車を飛び降り、階段を駆けあがった。男がホームに飛び出して叫んだ。「まてーこの野郎。」
 後を振り向かなかった。足がすくみそうになるのを必死で堪えて走りに走った。脚には自信があった。改札を飛び越えた。目の前にタクシーが止っている。そいつに乗り込んだ。
「急いでいる。追われている。何処でも良いから、兎に角、早く出してくれ。」
洋介はそう叫んだ。見ると男が改札を抜けるところだ。タクシーが急発進した。ほっと胸を撫で下ろした。バックミラーを見ながら、運転手が訊ねた。
「相手はヤクザかい。」
「ええ、ちょっと喧嘩になって。」
洋介が振りかえって見ると、男は携帯電話で誰かに連絡を入れている。右手には洋介のリックを握っていた。
「そりゃー、あんた相手が悪いよ。喧嘩するときには相手を良く見なけりゃ。俺も若い時、やったことがあるけど、その時は勝った。だけど、後になってそいつが仲
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