第六章
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決めた。ほとばしる音を聞いた途端、洋介は動いた。男に近付くと脇に挟んだ新聞をさっと引き抜いた。
男の視線はまるでスローモーションのように洋介を追うだけだ。動こうにも放出は続いていた。余程焦っていたのだろう、あっと声をあげ、体の向きを変えた途端、小便を床に撒き散らし、そこにいた男達の罵声を浴びた。洋介は新聞を右手に持って駆け出していた。「待て、この野郎」と言う叫び声を後に聞きながら、全力失踪していた。
池袋駅構内で男をまいたことは間違いない。改札でふり返って見たが、男の姿は何処にもなかった。階段を駆け上がって、ホームに入って来た電車に飛び乗った。電車はすぐに発車した。ドアの窓から過ぎ行くホームを覗いたが後を追う者はいない。
新聞は固い物が挟み込まれており、そこを握り締めていたため汗でぼろぼろになっている。新聞を広げると、そこにはケースに入ったMD(ミニディスク)がガムテープで止められていた。洋介は新聞を網棚に放り投げ、それを背中のベルトに差し込んだ。
高田馬場でドアが開くと電車を降りた。ちょうど、反対ホームに内回り電車が入って来るところだ。洋介は先頭車両に乗るため前方に急いだ。ジャケットを脱いでリックに押し込み電車に乗り込んだ。電車は池袋駅に入ってゆく。プラットホームに立つ人々に目を凝らしたが、それらしき男はいない。
銀髪の大男だ。見逃すはずもない。電車のドアが閉まり、洋介はふーと長い息を吐いて空いている席に腰を落とした。下谷の従兄弟のマンションに向かうことにした。駒込で降りてアパートの後処理をしようかとも思ったが、あの男に会う可能性もある。
会えば態度がぎくしゃくするに決まっている。それほど緊張しているのだった。腰を上げて後方の車両を覗いてみた。通路を歩いてくる男が見えた。あの銀髪ではない。2つ後ろの車両を、人を掻き分けこちらに向かって歩いて来る。
洋介は後頭部を窓ガラスにつけて、目を閉じた。まさかあの銀髪の仲間ということはないだろう。そう思い込もうとするのだが、胸の奥に巣くっている不安が振動しながら喉元までせりあがってくる。がばっと身を起こし男の方を窺った。
その男は黒の背広の上下にグレーのカッターシャツをラフに着こなしている。両サイドに目を配り、誰かを探している様子だ。体中の汗腺から冷や汗がじっとりと吹き出した。掌の汗をリックで拭いた。奴の仲間だろうか。
男は学生風の二人連れに近付き、片方の若者のリックを持ちあげてラベルを見た。若者は血相を変えて抗議しているようだが、男は相手にしない。手に持ったリックを突き放すと若者がよろけた。男は悠然と次ぎの車両に移った。
グレゴリーのリックだ。ジーンズの上下にグレゴリーのリックを背負った若者を捜している。洋介は膝に乗せたリックを見詰めた。大枚3万も叩いて
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