第五章
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の声が震えてくる。
「山奥の自宅からタクシーで駅まで来るようにって、タクシー券を贈ったんだ。その途中でダンプがタクシーに突っ込んだ。お袋さんは、この事故で死んだ。」
電話口の向こうで、鼻をすする音が響く。
「くー、泣かせるじゃねえか。アルバイトしてせっかく買って送ったその3000円分のタクシー券がよ、お袋さんを死地に赴かせるなんて、誰が考える、誰が予想する。息子のせっかくの好意と、息子の晴れ舞台を一目なりとも見たいと思う親心を思うと、涙なしには語れないよ。」
「ああ、分かるよ。で、その新聞記事も送ってもらえるわけだな。」
「ああ、送るよ。お前だって涙を誘われるよ。丸山は本当に親孝行だった。ただ、運がねえのよ。お袋さんも運がなかった。」
「つまり、その時点で丸山も天涯孤独になったというわけだ。二人に共通することは、大学卒業までに両親を亡くしている。これ以外に丸山のことで何か情報はないのか。」
「うーん、とにかく母親思いで、真面目で、努力家だってことだ。」
どうやらこれ以上の情報はなさそうだ。しかし、どう考えても捜査データとして使えそうもない。まだ二人とも包茎だったという方が話としては面白い。がっくりと肩を落としたのがわかったのだろうか、戸塚のおもねるように猫なで声が聞こえた。
「そうがっかりするなよ。まさしく偶然の一致だ。事件に関わることなんてこれっぽっちもない。お前さんも、そろそろ焼きがまわったんじゃねえのか。あの事件、特に鴻巣の方は強盗殺人さ。まあ、いい。お前さんのとっぴな推理はこれが始めてじゃない。しかし、約束は約束。お前さんの言っていた共通項には違いない。そうだろう。」
「ああ、その通りだ。分かった、来月の定例会の二次会は俺の奢りってことだ。」
「そういうこと。俺、あの店、気に入っているんだ。ちょっと高そうだけど、まあ、俺の努力を買ってもらうんだから、あのレベルじゃないと合わない。あの店のママ、好美っていったけ、美人だったよな。」
勝ち誇ったような哄笑が携帯を切ってからも榊原の耳に残こされた。
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