第五章
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類以外の共通項であれば何でもいい。」
「それじゃあ、一杯奢って貰えそうだ。それじゃあ、言うぞ、がっかりするなよ。」
鴻巣警察署の事件と今回の事件、被害者の共通項とは何なのか。耳に神経を集中した。
「ふたりとも、大学生の時に天涯孤独の身になっているってことだ。」
榊原は、その情報にがっくりときたが、口には出さず次ぎの言葉を待った。
「まず、西新井の石橋順二の方は週刊誌に詳しく載っていたんだが、生まれは島根の片田舎。中学の時、父親が交通事故で亡くなっている。高一の時、母親が再婚して神奈川に引っ越したが、義理の親父とうまくいかず、家を飛び出した。高校は出席数かつかつで卒業。その後一浪して東大に入った。母親は大学1年の時に心筋梗塞で亡くしている。」
そこで言葉を切って、間を持たせた。榊原は「それで。」と言って先を促した。
「鴻巣警察の事件の被害者、丸山亮はもともと片親だった。鹿児島出身。母一人子一人で、かなり貧しい生活を送っていたらしい。俺の女房の弟が鹿児島県警にいる。その義弟が調べてくれた。」
「ああ、そのことを思い出したからお前に頼んだんだ。それで。」
「中学校での成績は良かったそうだが、高校進学など望むべきもなかった。中学卒業後就職したんだが、どうしても自分の実力を試したくて、働きながらでも大学に行きたいといって単身東京に行ったんだ。」
「ほう、今時珍しい話しだ。つまり夜間高校に通ったわけだ。」
「ああ、卒業した翌年東大合格だ。とにかく母親思いの少年だったらしい。電話は高いからってめったにかけなかったが、手紙は毎月書いていたらしい。近所でも評判だった。」
「へー、ワシなんてお袋が死ぬまで1通も書いたことない。丸山はよっぽどマザコンだったんじゃないか。」
「まあ、そんなところだ。しかし、母親は、会うのを楽しみにしているという息子の最後の手紙をバッグに入れたままあの世に旅立っちまったんだから、可哀相の一言に尽きる。」
「で、その母親はどんな状況で亡くなったんだ。」
「それが、また可哀相な話なんだ。全く信じられないよ。俺の弟はその当時の新聞記事を見付けた。丸山亮の記事だ。地元紙しか出ていない。見出しはこうだ。”親孝行が徒に”だ。意味が分かるか。」
「いや、想像も出来ん。どういうことなんだ。」
「つまり、こういうこった。丸山はアルバイトの金を貯めて、お袋さんに東京までの切符を送った。卒業式にお袋さんを招いたんだ。その贈り物がお袋さんを死に導いた。分かるか。俺も思わず涙を誘われた。あんまりにも可哀想で。」
榊原はそろそろ潮時だと感じはじめた。戸塚はどんな話でも自分好みに脚色する癖がある。お涙頂だいの物語は榊原にとって推理の邪魔になるだけだ。涙目になっている戸塚を思い浮かべて溜息をつく。わずかに戸塚
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