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シンクロニシティ10
第五章
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」と、頭を掻きながら、そそくさと駅に消えていった。
 暗い思いは悪循環に陥り、出口のない迷路をさ迷い込んでいた。いつもの結論を何度も口ずさんでみたが、いつものようには納得がいかなかった。確かに榊原には警官以外の仕事など考えられない。だから耐えるのか。
 携帯が鳴った。幸子からかもしれない。そう思ったが、惨めな自分を晒すような気がして話したくなかった。鳴るに任せて、酒を煽った。回りの客の視線が気になり、しかたなく、胸のポケットから携帯を取りだした。やはり幸子だった。溜息がこぼれた。
「もしもし、私、今日、何度も電話したけど、ずっと留守電だったわ。」
「ああ、張り込み中に電話が鳴ったら台無しだからな。」
つい嘘が出た。
「あら、ご免なさい。でも、この一月ずっと会ってくれないんだもの、寂しくって。」
「ああ、申し訳ない。捜査本部に入ったら、プライベートの時間なんてとても持てない。もうしばらく勘弁してくれ。」
「何か元気がないみたい。どうかしたの。」
 女は鋭い。榊原は適当に誤魔化し、来週には時間を作ると約束して電話を切った。幸子の切なそうな声を聞くうちに勃起していた。疲労が体全体を包んでいるというのに、下半身の神経だけは高ぶっている。
 幸子の関心を惹こうとして自分以上の自分を演じていた。事実に則して事件解決の顛末を話したつもりだが、自慢話になっていた。幸子がベッドで「名探偵さん」と囁く時、やに下がっていた自分が恥ずかしい。
 自分はシャーロックホームズなんかではない。生活がかかっているのだ。出世だってしたい。せめて警部にはなりたかった。父親は榊原より5歳も若く広島県警の警部になった。そんなことで悩んでいる自分を幸子に気付かれたくない。
 携帯を戻そうとして、ふと着信履歴を見ると、幸子の着信の前に同期の戸塚の名前が表示されている。日付をみると三日も前だ。さっそくリダイアルした。心が弾んだ。先ほどまでの暗澹たる思いも消えていた。榊原は立ち直りも早い。相手はすぐに出た。
「もしもし、随分と放っておいてくれたもんだな。」
「いやいや、申し訳ない。ワシは殆ど携帯なんていじらないから、よう気が付かなかった。」
「おいおい、それじゃあ、俺の残したメッセージも聞いていないのか。俺は生まれて始めて、思いきって、ピーっていう音の後にメッセージってやつを入れたんだ。」
「そいつを聞くのは後の楽しみにとっておこう。お前の緊張した声を聞くのも一興だ。それより例の頼んでおいたことだな。」
「ああ、もっとも、こんなことで一杯奢って貰うのもちょっと気が引ける程度のことだがな、お前さんのいう共通項に違いない。手が二本とか、チンボコが一本とか、そういう類の共通項でなければ何でも良いって言ったよな。」
「ああ、その通り。そういう
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