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シンクロニシティ10
第五章
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るのだ。あのキャリアの襟首を掴んで振り回したことが今でも影響している。
 噂では、殴ったことになっているらしいが、そこまで馬鹿ではない。激情し相手の襟を掴んで引き寄せただけだ。肘が相手の顎に当ったが、それははずみというものだ。いや、正直に言えば意識してやったことだが、当然のことをしたと思っている。
 

  あのキャリアの顔は今でも覚えている。駒田一郎。瓜実顔に黒縁の眼、典型的なキャリア顔した男だった。当時、榊原は大井警察署の刑事課にいた。署内でキャリアの研修が行われていたのは知っていたが、まさか自分にお鉢が回ってくるとは思いもしなかった。
 その日、榊原は突然課長から呼び出され、駒田のお守り仰せつかった。覆面パトカーにでも乗せて、午後いっぱい遊ばせろという指示だ。午後の講師役が事故を起こして来られないというのだ。榊原は駒田を助手席に座らせ、管内を流して回った。
 くれぐれも大事に扱えという指示がおりていた。それに反発して、ついついつっけんどうな受け答えになっていたが、冷たいと言うほどではない。榊原としてはまずまずの対応だと思ったし、後一時間無事に済ませれば開放されるところまで来ていた。
 車は大井競馬場から大森駅方面に向っていた。広い道から折れて住宅街の狭い一方通行に入っていった。ふと、50メートルほど先にパトカーが止まっているのが見えた。ゆっくりと近付いてゆくと、そこには小さな公園があった。
 公園の奥、木立の中で二人の制服警官が、若者三人に職務質問をしていた。体の大きな若者が、猛然と食ってかかっている。年かさの警官がその若者をやんわりとなだめ、もう一人の憮然とした若い警官をけん制している。そんな構図である。
 いきなり若者がなだめていた警官を殴った。ボクシングかなにかやっている、榊原は咄嗟に判断した。腰の入れ方が素人のそれではない。殴られた警官はがくっと膝をついた。若い警官が警棒に手を掛けた時、二人の若者が飛び付いた。
 榊原は咄嗟に車から飛び出し、「お前も来い」と叫んで走り出した。駒田は追ってこない。そんなことは最初から分かっていたし、どうせ頼りにならないのだから気にもしなかった。久しぶりに手応えのある相手を見つけて躍り出たのだ。
 あっという間に若者三人をぶちのめし、二人の警官と一緒に勝利の雄叫びを上げたい気分で、ぜいぜいと息をしながら警官達に話しかけた。
「ご苦労さん。一件落着だ。ワシは刑事課の榊原だ。おい、お若いの、早く手錠をはめちまえよ。」
年かさのいった警官も肩で息をしながら答えた。
「助かりました。私は有川巡査部長、相棒は志村巡査といいます。この野郎、ボクシングかなにかやっていますよ。私達二人ではとても手に負えませんでした。本当に有難うございます。こいつらトルエンの売人ですよ。近くに隠
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