第四章
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一週間後、石田は再び晴海に呼び出され、渋谷で待ち合わせて昼食をご馳走した。晴美は起きたばっかりだという。どんな生活をしているのか不思議に思い問いただすと、大学受験資格を得るため大学検定の勉強をしていると言う。
晴美はよく食べよく喋った。若い女のエネルギーを感じた。石田は始終にこにこと話を聞いて、頷くばかりだった。父親という役割も演じるのではなく、自然に身に着いてきたようだ。娘とのデートは、憂鬱な現実を忘れさせる楽しい一時だった。
渋谷駅で晴美と別れ、うきうきと幸福感に包まれて山手線に乗った。晴美は更正しつつある。母親とも素直に話せるようになったという。何が彼女を変えたのか。それは、新しい彼氏の存在が大きいようだ。
話を聞いただけだが、彼氏の牛田洋介という青年に好感が持てた。しかし、どう考えても肉体関係があると思わせる台詞に、つい目くじらを立てたくなるのだが、今の子供にとってそれはごく当たり前のことだと思っているらしく、実にあっけらかんとしている。
次に食事をする時は洋介を誘ってもよいかと聞かれたので、歓迎すると言っておいた。晴海の彼氏なら一度会ってみたいと思った。晴海が言うには、幸子も一度会わせただけだが妙に彼氏を気に入っていると言う。
つくづく思うことだが、人は出会いによって人生が変わる。ふと、今日の新聞の記事が脳裏をかすめた。女子高の女教師が殺人教唆で逮捕されたとあった。浮気相手が自分の旦那を殺したのだ。教唆の事実を裏付ける証拠があったからこそ、警察は逮捕に踏み切ったのだろう。
しかし、その証拠について、その記事には何も語ってはいない。いずにせよ、その男との出会がなければ、女教師も真っ当な人生を歩んだはずだ。たとえ、旦那とうまくいっていなくとも、罪人になるよりはましな人生だったはずである。
ふとそこまで考えて、暗い思いに直面した。そうだ、妹もその男達に出会わなければ、真っ当な人生を歩んだに違いなかった。今頃は俺に似た手の掛かるやんちゃ坊主の母親に納まっていたかもしれない。
そう、妹は、出会うべきでない男達にたまたま出会ってしまったのだ。妹の体から複数の男の精液が検出されたのだから。
妹、和代の死体が発見されたのは新潟の柏崎の海岸だった。男達に暴行され、最後に首を絞められ殺害された。その苦悶の表情が石田の脳裏に焼き付いて離れない。和代はまだ16歳、高校2年の夏の出来事だった。
あれから19年が過ぎようとしている。既に時効が成立して4年が経過していた。復讐の思いは虚しく朽ち果てようとしている。そこに和代の目元を受け継いだ晴美が現れた。抱きしめたいという衝動を漸く押さえた。和代が晴美のなかで生きている、そう思った。
しかし、晴美は和代とは性格も容姿も全く別の人間だった。清楚で純朴な少
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