第四章
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ま見上げると、洋介は晴美を凝視している。まだ柔らかい。舌を動かすと、洋介はあーっと吐息を漏らし、その瞳は閉じられた。晴美は必死で舌を動かしながら、幸せを噛み締めていた。
洋介とはまだ知り合ったばかりだが、今まで付き合った男達とは毛色が違っていた。誠実で、何よりも大人の雰囲気を漂わせている。実際、前の彼氏、ノボルは体が大きいだけで精神は子供のままだ。暴走族のリーダーで喧嘩が趣味のような男だった。
一月前のことだ。洋介に寝取られたことを知ったノボルは、東長崎の洋介のアパートを襲った。晴美も一緒だった。僅かに開いたドアから覗いたノボルの憎悪に満ちた目が忘れられない。ドアチェーンが引き千切られた。
洋介は一瞬ひるんだが、侵入しようとしたノボルを足で蹴って、ドアを戻すと鍵をかけた。身を翻し、押入れにしまい込んであった木製のバットを取ると、ドアの前に立ち身構えた。合板のドアが蹴られミシミシとひび割れて行く。洋介が振り返り叫んだ。
「警察だ、警察に電話しろ。」
晴美は震える指で電話をかけた。その間、ドアの鍵がキンという音と共に飛んでドアが内側に開かれた。ノボルが仁王立ちしていた。その手には金属バットが握られている。両脇からケンと佐々木が顔を覗かせている。洋介はバット構えたまま言った。
「入れるもんなら入ってみろ。」
ノボルが三和土に踊り込み「この野郎」と叫びながら、バッドの先を洋介の顔目掛けて突いてきた。その瞬間、木製のバットが唸りをあげた。金属バットはキンという音と共にノボルの手から弾けるように放たれた。それは台所の壁にぶつかり晴美の足元に飛んで来た。晴美は「キャー」と小さく叫んだ。
その声に洋介が振りかえった瞬間、ノボルは洋介の腰にタックルをかけた。洋介は後ろに倒れ込みながら、左に払ったバットを引き戻し、両手で握り直すとノボルの喉仏を思いきり前に突き出しながら仰向けに倒れこんだ。
ノボルは喉の痛みに堪え切れず、手を離し洋介の隣にうつ伏した。洋介はすぐさま立ちあがり、バットを構え直し、背後から迫っていたケンと佐々木を睨み付けた。そして唸るような声を発した。
「俺は中学高校と野球部の四番バッターだった。お前等、その手と足を一生使い物にならなくしてやろうか。えっ、どうする。」
二人は顔を見合わせた。晴美が叫んだ。
「もうすぐ警察が来るわ。あんた達、早く逃げて。」
二人はピクンと肩を震わせると、さっと身を翻した。ノボルが漸く起き上がり、洋介を睨むと、大きく肩で息をしながら声にならない声を発した。洋介はノボルが何を言ったのか、怪訝に思った。洋介を睨んだまま、ノボルがゆっくりと部屋を後にした。洋介は身じろぎもせず誰もいなくなった入り口を睨みつめている。
静寂が訪れた。ハアハアという洋介の呼吸だけが響いている。バ
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