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シンクロニシティ10
第三章
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聞いてるわ。写真のこと。」
石田はぽかんと口を開けたまま晴海を見た。幸子が不貞の事実を娘に打ち明けたと知って面食らったのだ。
「ママ、最近になって話してくれたの。二人が別れた事情。多分、私の口を借りて、お父さんに言い訳がしたかったんだと思う。」
石田は、思わず身構え、押し黙った。あの時、幸子の話を聞かなかったことを今でも後悔していた。晴美の口が動いた。
「あの写真の男は高校の時のボーイフレンド。名前は杉村マコト。肉体関係はなかったって言ってるわ。」
石田はごくりと生唾を飲み込んだ。いよいよ真実が明かされる。今更の感はあるものの、あの写真の男、杉田マコトという名を心に刻み込んだ。
「その人、高校時代、ママのために暴力事件を起こして退学になったの。高校の先生がママに不当な言葉を吐いて、それでキレたみたい。」
石田はすぐにピンときた。あのことだ。
「そういう人種など無視すればいいんだ。どこにでもいる、馬鹿な連中だ。」
「ええ、ママも私も気にしてなんかいないわ。でもマコトは我慢できずに暴走してしまった。ママのことが好きだったから。本当にマコトの男って感じ。で、その人と別れる時、つまりその人が福岡を去る時、ある約束をしたそうよ。」
「どんな。」
「ママの20歳の誕生日に、福岡のある場所で会う約束をしたの。ママは迷ったみたいだけど、その日、その場所に行ったの。愛する人が出来たことを報告するつもりで。でも、とうとうその人は現れなかった。」

 石田はぼんやりと遠くを見つめた。やはりそんなことがあったのか。何か事情があるとは思っていた。あの日、唐突に母の墓参りにゆくと福岡に飛び立った。そして、幸子はその直後に妊娠した。そして石田はその暗い疑念を心の襞に隠しつづけていたのだ。
「その人が今のお父さんなの。」
「違うわ。そうであったらどんなに良いか。プラトニックな愛のために自分の将来を犠牲に出来る人なんて、そうはいないもの。退学になったのは、県で一番の進学校よ。」
「結局、その人とは結ばれなかったわけだ。」
「ええ、一度、東京で再会しただけ。あの場所で会って、それっきり。」
「あの場所って、写真の場所のことかい。」
「ええ、そう。ママに言わせると、急に抱きすくめられてキスされそうになったけど、胸を押してそれを避けたんだって。」
言われてみれば、写真はやや右斜め後ろから撮られていた。キスしているように見えただけだったのかもしれない。
「では、あの写真を撮ったのは誰なんだろう。」
何度となく繰り返した疑問を口にしていた。恐らくあの人物だろうと思うところはあるのだが。
「分からない。ママも分からないって言っていたわ。」
石田は大きな吐息を漏らすと、くらくらと目眩を感じた。何もかも、自らの卑小
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