第三章
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とした顔立ちで、細い鼻梁と尖った顎は妹のそれではない。晴美の方が今風のシャープな感じなのに対し、妹は古風な日本人を思わせる丸顔のぽっちゃりタイプだ。しかし、晴美は間違いなく叔母にあたる妹の目元を引き継いでいた。
石田は晴美に妹の面影を重ねた。じっと見詰めていた。なつかしさがこみ上げてきた。沈黙に耐えられず晴美が口を開いた。
「あのー、さっきから、どうしてそんなに見詰めているの。」
「ああ、実は、君の目元が死んだ妹にそっくりなんだ。顔全体の雰囲気は違うし、君の方が美人だけど、目元がそっくりで、本当に驚いた。」
「あら、私の叔母さんに当る方ね。どうして死んだの。」
石田は一瞬息を呑んだ。思案をめぐらし咄嗟に嘘をついた。
「病気で死んだ。高校2年の時。白血病だった。」
「ふーん、可哀想、でもやっぱり、不幸な家系なんだ。」
と言って、遠くを見詰めた。石田は何と答えてよいのか分からず、煙草をとりだすと火を点けた。
晴美の先ほどまでの明るさと幼さが一瞬にして崩れた。何のブランドかは分からないが、高級そうなバッグから銀のシガレットケースを出し、煙草を咥えた。半開きの唇に艶っぽさを漂わせている。
妹の和代とは別の人間であることを思い知らされた。煙を吐き出しながら晴美が言った。
「榊原のおっちゃんに、お父さんに会えって言われた。慰めてやってくれって。奥さんに逃げられたんでしょう。」
「ああ、君のお母さんに次いでこれで二度目だ。よほど女運が悪いらしい。」
晴美は無表情のままだ。石田は溜息混じりに聞いた。
「榊原に詳しく話を聞いたのか。」
「ええ、今、奥さんと子供の行方を捜しているって。」
「榊原の奴、全く余計なことを言う奴だ。」
晴美は石田の不機嫌そうな顔を見て話題を変えた。
「でも、冴えない中年だったらどうしようと思っていたけど、素敵なオジサンで良かった。それに話は違うけど、喧嘩強いんだって。榊原のおっちゃんが言ってたけど、公式戦には出られなかったけどクラブで一番強かったって。」
「ああ、強かった。でももう昔のことだ。もうすぐ40だからね。」
石田は一呼吸あけると、一番気になっていることを口にした。
「ところで、僕のこと、と言うか中野の家のこと、記憶にあるの。」
煙を横に吐き出しながら、視界の端で晴美の反応を窺がった。晴美は思案顔で視線を巡らせると、にこりとして答えた。
「ぜんぜん。」
ふわーっと肩の力が抜けてゆく。火の付いたように泣き出した幼子の顔が一瞬蘇る。石田は心の襞に隠していた疚しさなど微塵も見せず、何食わぬ顔で言った。
「僕と君の母さんのことは、いずれ話そうと思うけど、今日のところは勘弁してほしい。今から思えば僕が一方的に悪かったと思っているけど……」
「
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