第三章
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いた。
「石田課長、お前は仕事を何だと思っているんだ。随分と遅れているってことはお前が一番よく分かっているだろう。このまま行くと、工期に間に合わんのじゃないか。」
石田は頭を下げながら答えた。
「だいじょうぶだと思います。恐らく、工期延伸は先方から言ってきますよ。JRと東芝電鉄との折衝はそう簡単には運ばんでしょう。またぞろ、設計条件の変更を言ってくるはずです。このまま進めて、全てやり直しではかないませんからね。」
「おい、君は預言者か。設計変更が出るってどうして言えるんだ。」
「実を申しますと、東芝電鉄の工務課には後輩がいますから、情報は入ってきています。JRもそうそう無理は通せないでしょう。」
「本当なんだろうな。その後輩の話ってのは。」
「ええ、間違いありません。」
延々と頭を下げ続け、説得した。妻の居所が掴めかけたと嘘もついた。氏家部長は苦虫を潰したような顔で判子に手を伸ばしたのである。
東芝電鉄の後輩の話は嘘である。しかし、設計変更が出るという自信はあった。直感でしかないが、それはJRの担当者との打ちあわせでそのニュアンスを読み取ったのだ。氏家も参加した打ちあわせである。どうやら、氏家は何も感じなかったようだ。
氏家は典型的な左脳人間である。言葉のニュアンスが分からず、行間が読めない。こうしたタイプは理科系と役人に多い。かつて榊原に聞いたことがある。
「キャリアっていうのはどっちのタイプが多いんだ。」
「言うまでもなく左脳人間だ。記憶力と論理はさすがだが、おおよそ、第六感とか閃きとは縁のない連中だ。かつて後藤田が言った通り、新たに創造する能力はない。とはいえ、人生一度きりのテストで将来を約束された500人ほどのキャリアが、つまりその左脳人間である警察庁キャリアが、俺達の頭を押さえ込んでいるんだから参るよ。」
石田が聞いた。
「でもキャリアが現場に降りてくることなんて、めったにないのだろう?」
「ああ、現場に赴任してもお殿様だからな。俺たちジャコが関わることはない。でも全くないわけじゃない。そんな時失敗こいて、そのお殿様に睨まれたら一巻の終わり。一生日の目は見られん。たとえ昇進試験に受かってもな。」
「おいおい、現場中心の職場で昇進試験かよ。検挙率とか行動力とか或いは統率力で評価されて出世するんじゃないの?」
「いや、試験に受からなければ昇進出来ん。」
「しかし、バリバリの現場で試験が昇進の判断基準では組織がおかしくなる。」
呆れたような顔で榊原が言った。
「だからおかしくなっているんだ。現場での能力なんて昇進には役にたたん。胡麻摺り能力のほうが余程有効だ。それに、ワシがどんなに成績を上げても、厚いバインダーに記録された考課表は変わらん。あるキャリアがワシに下し
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