暁 〜小説投稿サイト〜
シンクロニシティ10
第二章
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
い。それに幸子さんの言うことなど聞く耳を持たんと言うんだ。だから、お前の力が必要だって。」
「しかし、今の俺に何が出来るというんだ。それに俺の頭の中は、亜由美と知美のことでいっぱいだ。それどころじゃない。」
「ああ、分かっている。だけど、何も四六時中、晴美ちゃんの面倒を見ろって言ってるわけじゃない。時間が在る時に、会って話を聞いてやってくれって言っているだけだ。」
石田は、溜息をついた。榊原はさらに迫った。
「晴美ちゃんだって、3歳の時別れたんだから、お前を覚えている訳じゃない。だけど、本当の親父であれば心を開いてくれるかもしれない。兎に角、今、誰かが支えてやらなければ、彼女は落ちるところまで落ちてしまう。」
石田がまたしても溜息をつき、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「ああ、分かったよ。会ってみよう、親としての責任もあるし。俺の身の上話をしたら、同情してくれるかもしれんな。」
榊原が笑いながら応えた。
「全くだ、奥さんに二回も逃げられるなんて、めったにあることじゃない。彼女にとっても人生を考え直すきっかけになるかもしれん。まあ、反面教師ってわけだ。」
友のきついジョークにうんざりしながらも石田は覚悟を決めた。全く、面倒ってやつは、いつだって、いっしょくたに襲ってくる。石田の偽らざる心境だった。
 仕事の途中だという榊原と別れて石田は銀座の街をぶらついた。憂鬱な気分に包まれ、足を引きずるように歩いた。不安が心の奥底からじわじわと浮かび上がる。晴美と会う。そのことが憂鬱の原因だった。晴美はあのことを覚えているだろうか。
 人は激情にかられて、自ら理性をかなぐり捨てる瞬間がある。それがどんなに理不尽な行為と分かっていても、その衝動を押さえるのは難しい。思わず一線を踏み越えるのではない。自らの意思でそうするのだ。あの忌まわしい情景が瞬時に蘇る。石田は思わずため息を洩らした。

 幸子は高校2年の時に福岡から都立高校に転入し、駒込の叔母の家で暮らしていた。石田はたまたまその家に家庭教師として派遣されたのだ。二人はすぐに親しくなったのだが、それにはそれなりの理由があったのだ。
 ぽつりぽつりと語った話しによると、幸子の父親は福岡の素封家で、母親は事情があって幸子を連れて家を出たが、その母親が急逝して叔母の元に身を寄せているのだと言う。その頃の幸子は孤独を癒してくれる誰かを求めていたのだ。
幸子が妊娠してしまい、石田は大学を休学して先輩の勤める設計会社に就職した。幸子は叔母の反対を押し切って中野に借りた一軒家に身一つでやってきた。そして晴海を生んだ。親子3人の生活は決して豊かではなかったが、穏やかな幸せに包まれていた。今でも、その一こま一こまを脳裏に浮かべることが出来る。
 石田が奈落の底に突き落とされるよう
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ