第二章
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
あった。まったく勝手な奴だ。」
「おいおい、奥さんを捜しているのは、そんな恨み言を言うためなのか。」
「まあ、正直いうとそれも半分あるかな。もっとも、女房と子供を前にしたら、そんなこと、思い出しもしないだろうけど。」
「兎に角、早く捜しだしてやれよ。きっと奥さんだって、お前を待っているはずだ。」
石田は深く何度も頷いた。
石田は最後の一滴を美味そうに飲み干し、ジョッキを置いた。そして言った。
「ところで榊原、俺に話ってのは何だ。」
榊原は、呼び出した用件をいきなり催促されて、一瞬困惑の表情を見せた。そして煙草をポケットから引っ張り出して、一本をつまみむと口に咥え、もごもごと唇を動かした。
「実は、お前がもう少し落ち付いたら話そうと思っていたんだが、一向に落ち付きそうもないし、幸子さんにも催促されているし、俺も参ったよ。」
「おいおい、幸子って、まさか、山際幸子なんて言うんじゃないだろうな。」
「いや、その幸子さんだ。今は、小野寺幸子になっているが。」
石田は、榊原の顔をまじまじと見詰めた。忘却の彼方に追いやっていた苦い思い出が蘇って、胸が締め付けられた。榊原の唇が動いているのは分かったが、言葉として耳に入っていなかった。石田がぽつりと言った。
「幸子と会ったのか。」
「おいおい、何度も同じこと言わせるなよ。捜査本部が置かれている石神井署で偶然出くわしたって言っただろう。三ヶ月前、今年の5月頃だ。少しやつれていたけど、昔と変わっていなかった。本当に懐かしかったよ。」
「彼女は、何故そんな所に来ていたんだ。」
「高校2年の子供が補導されて、引き取りに来たんだとよ。」
「高校2年生だって。」
一瞬、石田は過去に迷い込んだような錯覚に陥った。
「ああ、そうだ、お前の子供だ。お前が22歳の時の。しかし、あのちっちゃな赤ん坊があんな女の子になるなんて、ワシ等も歳をとるわけだ。」
石田は押し黙った。幸子と子供の3人で暮らした中野の古い二階家の一室が脳裏に浮かんだ。子供をあやす幸子がそこにいた。幸せで静かな日々がそこにあった。そして、次ぎの瞬間、その心象風景は狭い玄関に移った。子供を抱える幸子が目に涙を湛えて佇んでいた。真一文字に結んだ唇が動く寸前、石田は何かを幸子に投げつけた。
榊原の声が遠くで聞こえた。
「お前そっくりだ。可愛いお嬢さんに成長していたよ。しかし、精神的に弱いタイプかもしれない。」
榊原の「お前にそっくりだ」という言葉で、ふと現実に戻された。
「晴美は何をした。何で補導されたんだ。」
「シンナーだ。」
そう言うと、ようやく口に咥えたタバコに火を点けた。そして続けた。
「幸子さんと何度か会った。話によると、晴美ちゃんは、義理の親父とうまくいってないらし
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ