第一章
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幸子が周囲を憚ることなく声を荒げた。
「いい加減にしなさい。私のどこが気に入らないの。私だって必死で生きてるのよ。あんたにとやかく言われるようなことなど一切していないわ。それなのに、何であなたまで私を不幸のどん底に落とすようなことするの。何故なの。」
晴海はふんと横を向いてふて腐れている。
「中学校の時はあんなに良い子で、成績だって学校でトップクラスだった。それが何故なの。お母さんには何がなんだか分からない。」
そう言って、幸子は涙を絞るように顔を歪め長椅子に座り込んだ。何も隠すこともない関係だからこそ幸子はあからさまな激情を吐露している。榊原に助けを求めているような気がした。榊原はその気持ちに応えるしかない。逡巡しながらようやく口を開いた。
「ワシはあんたを赤ん坊の頃から知っている。何であんたが肉親に逆らっているのか、今は分からんが、いずれは分かることもあるだろう。ゲジゲジ眉のおじさんは、あんたのオシメまで換えたこともある他人なんだから、今度ゆっくりと話し合おう、どうだ。」
晴美に笑顔が戻った。そして答えた。
「ええ、いいわ。あんたとなら話しが合いそうだし、私、あんたのこと好きだったから。」
「そいつは光栄だ。女にもてたのは後にも先にもこれが初めてだ。あんた、今、携帯もっているか。」
榊原が晴美のナンバーを聞いて登録していると、
「おじちゃん、ぶっとい指のわりに器用じゃん。ねえ、ねえ、今の番号かけてみて。」
しばらくして晴美の携帯が鳴った。晴美は忙しく指を動かし榊原の携帯番号を登録している。榊原はこそばゆい感覚を噛み締めながら幸子を見ると、幸子も涙を拭いながら苦笑いを浮かべている。
榊原は幸子の視線にすがるような色合いがあるのを感じた。かつてマドンナと崇めた女が、今どんな現実にいるのか垣間見る思いだった。同時に、これから起こるであろう新たな関係に心時めいた。
ふと、家に鎮座する達磨のような女房を思い浮かべた。かつて可憐な婦警だったが、子供を産むたびに肥え太っていった。2人の子供には良き母親ではあったが、女としての魅力は感じなくなっていた。榊原は急いでその面影を振り払ったのだった。
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