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シンクロニシティ10
第一章
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の前にいるのがそいつだよ。いったい娘さん何で補導されたの?それに前にも補導されたことあるのかな。」
「ええ、何度も。でもシンナーは初めて。近くの公園でシンナー吸っていたところを補導されたみたい。本当に困った娘なの。親に逆らってばかりいて」
榊原は幸子に傍らの長椅子を勧め、自分も座った。
「すぐに連れてきてあげますよ。ここで待っててください」
榊原は何かを言おうとしたが思いとどまった。そしてすぐに席をたった。
 幸子は榊原の背中に一礼した。そして不安と苛立ちがじょじょに氷解してゆくのを意識した。ここで榊原に再会したことが、娘にとって良いきっかけになるかもしれないと思ったのだ。榊原は娘をよく知っていた。もっとも3歳になるまでなのだが。

 榊原は5分ほどして二階から降りてきた。その大きな背中に見え隠れしながら娘が歩いてくる。かつて榊原の膝で満足そうに笑みを浮かべていたあの子が、一人で大きくなったみたいな顔してふて腐れている。
 榊原が振り返り何か話しかけた。憮然とした顔をどうしたらいいのか戸惑っている。顔をほころばせてなるものかと抗っているようだ。また榊原が声を掛けた。娘はとうとう笑い出した。幸子は思わず頬をほころばせた。あんな娘の顔を見るのは何年ぶりだろう。
「幸子さんに、つまり親御さんによく言い聞かせるっていう約束で無罪放免にしてもらった。とにかく、二人でよーく話し合って下さい。」
榊原はそう言って、にこにこと微笑んでいる。
「本当に有難うございます。」
幸子は深深と頭を下げた後、困惑したように娘を見た。娘は知らん顔でそっぽを向く。
「晴美、あなたは覚えていないでしょうけど、榊原さんはあなたのことをよく知っているの。まだ赤ん坊の頃よく遊んでもらったのよ。」
晴美の反応は予想外だった。
「そのゲジゲジ眉だけは印象に残ってる。でも、私の大事な部分を見られたなんて、悔しい。」
大人二人は顔を見合わせ思わず吹き出した。榊原が笑いながら言った。
「本当に覚えているのかい。3歳までの記憶は忘れてしまうって話だが。」
「私の記憶は3歳からよ。あの日のことだって覚えているもの。」
こういって母親に視線を向けた。幸子は一瞬顔を曇らせたが、すぐに気をとりなおした。
「晴美、今度と言う今度は本当に呆れて何も言えないわ。何でシンナーなの。シンナーって恐ろしいの。体がボロボロになってしまうのよ、分かっているの。脳が溶かされて一生を台無しにしてしまうの。」
「うるせっての。あんたのその深刻そうな面見ているだけで反吐がでそう。ウエ。その面忘れるにはシンナーが一番よ。」
 榊原は或る程度予想していたものの、その突き刺さるような言葉を聞いて寒寒とした気分に襲われた。どうとりなしたものか、言葉を捜した。突然、
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