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シンクロニシティ10
第一章
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像逞しくしたところで、真実に近付くわけでもない。榊原は煙草を取り出し、火を点けた。そして目を閉じ、ゆっくりと煙を肺に送り込む。
 その時、思考のなかに別のものが入り込んできた。榊原は思わず頬を緩ませ、満足そうに笑みを浮かべた。傍から見たらさぞかし、やに下がっていたに違いない。原がいないのは幸いだった。
 榊原は思った。不思議な巡り合わせとしか言い様がない。かつて憧れたあのマドンナが目の前で微笑んでいる。あれほど魅力的な肉体が自分のものになろうとは、まさかこの歳で胸をときめかせることがあろうとは想像だにしなかった。

 それは石神井署に入って1週間目のことだ。原刑事と足を引きずるようにして署に戻った。そして思わず自分の目を疑った。二度と会うことはないと思っていたマドンナがそこに佇んでいたのだ。
 やや頬がふっくらとした感じがしたが、美しさに変わりはない。彼女はかつて友人の妻だった。その友人は不幸の塊を背負ったような男だが、そんな男に一人の女がいつも寄り添っていた。
 俯きかげんに見上げた時の澄んだ切れ長の目、透き通るような肌、触れると壊れてしまいそうな女に榊原は息を呑んだのだ。初めてその友人に紹介された時のように、その視線を榊原に向けている。
 しかし、それは榊原個人の像を形作ることなくさ迷っている。榊原が話しかけようと近付いているにもかかわらず、困惑した視線は揺れ続けていたのだ。
「お久しぶりです。」
声をかけられて初めて、女は目の前の男に視線を凝らした。そしてそれがかつて親しくしていた友人であることに気付くのに数秒掛かった。
「あらっ」
両目を大きく見開き、喜びの表情を顕わにした。
「榊原さん。本当にあの榊原さんなの。警察にお勤めになられたって聞いていましたけれど、ここにいらっしゃたの?」
「いや、所属は本庁の方ですけど、最近、ここの捜査本部に詰めているんです。幸子さんは何でここに。」
幸子と呼ばれた女の表情は少々曇ったが、かつての気心の知れた関係が瞬時に蘇り、打ち明ける気になった。しかし、榊原の後ろにいるぎょろ目の男が気になる。
 榊原は女の視線で原の存在に気付いた。原はいつになく取澄ました榊原の物腰、そしてその相手の美貌に目を剥いている。榊原が手で追い払うと、原は口を尖らせ、何度も後ろを振り返りながら階段に向った。  
 二人だけになると、ようやく安心したらしく、幸子は溜息混じりに口を開いた。
「娘が、補導されたんです。少年課に来るように言われたんですけど、その少年課がどこなのか分からなくって。それに、刑事さんとお話するなんてなんだか怖くて、気後れしてたの。」
俯いていた幸子が、苦笑いする榊原を見上げてこう付け加えた。
「でも優しい刑事さんもいるって言いたいの?」
「ああ、目
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