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シンクロニシティ10
第一章
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も、それを口に出さないのが刑事なのだ。
 二人は被害者宅から盗まれたローレックスのナシワリ捜査にあたっていた。ナシワリとは盗品捜査のことで、犯人が盗品を質屋やセコハン屋に持ち込む可能性があり、そうした店を虱潰しにあたる。捜査本部に途中から加わった榊原は、原の分担であるローレックスの捜索に付き合うことになったのである。

 実を言えば、榊原は以前からこの石神井の強盗殺人事件に注目していた。何故なら、かつて榊原が興味をもって見詰めた事件、一時新聞紙上を賑わせ、人々の記憶から消え去ったあの事件に似ている気がしたのだ。

 石神井の事件は雪の散らつく寒い晩に起こった。深夜0時、国土交通省に勤める石橋順二、34歳の自宅に強盗が入った。一階に寝ていた夫婦は激しく抵抗したが出刃包丁で刺殺され、階下の物音を聞き付け降りてきた小学生の男の子は絞殺された。
 夫婦とも10ケ所以上の刺し傷、切り傷があり、妻は頚動脈を切られ出血死し、夫は、包丁が肋骨を切断しその刃先は心臓まで達していた。予期せぬ抵抗にあい、半狂乱になって包丁を振り回す強盗がとった凶行と判断された。
 それは妥当な判断と言わざるを得ない。何故なら部屋は荒らされ、現金、預金通帳、クレジットカード、宝石類が盗まれており、その中に被害者所有の市価170万のローレックスも含まれていた。単純な強盗殺人事件と考えるのは当然である。
 まして、悲鳴を聞きつけ窓から首を出した付近の住人が、現場から立ち去る白っぽいセルシオを目撃していたし、血のついた運動靴の足跡は玄関先から車の停めてあったと思われる場所まで続き、その運動靴のメーカーまで特定されていた。誰もが早期解決は当然だと思っていたのである。
 しかし、指揮を執る本庁捜査一課3係りの石川警部の機嫌が良かったのは、華々しくマスコミ会見を開いていた最初の一月だけで、その後は悪くなる一方だった。石川警部が部下の尻をいくら叩いても捜査の進展は一向に見られなかったのである。
 榊原は石川警部とかつて新宿署で一緒に仕事をしたことがある。大学の5年後輩ということで榊原に近付いてきたのだが、榊原は肌が合わず疎んじた。しかし今では本庁捜査一課の係りは違うが上席にあたる。
 石川警部は科学捜査信奉者だ。しかし捜査マニュアル通りの手法しか思い付かず、その結果収穫がないのに業を煮やし、部下を怒鳴り散らすという人間臭さをみせている。恐らく榊原の仮説など一顧だにしないだろう。

 うとうととして、ふと前を見ると原の姿はない。どうやら一人で聞き込みに行ったようだ。榊原は一人ほくそえんだ。今日も、報告は原に任せればよい。
 もうこの捜査にはうんざりだった。煮詰まったら原点に戻るか、視点を変えてみるのが常道だ。石川警部にはその姿勢がない。今の捜査手法は或いは犯人の思
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